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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
251/421

◆◆◆◆ 8-20 散会 ◆◆◆◆

【 ヤクモ 】

「――この場で即答はいたしかねますな」


【 レツドウ 】

「ほう、戦場においては果断かだんそのもの、迷うことなど知らぬ貴公が、か?」

 *果断……迷わない、決断力があるの意。


【 ヤクモ 】

「私の一存で決められることではありませぬ」


【 ヤクモ 】

「私は、皇帝でも王でもございません。私を盛り立ててくれている者たちの意見も聞かねばなりませんので」


【 レツドウ 】

「ふむ……? 我らが頼もしきスイ大王――と、飛鷹ひようの民から敬われていると聞くが」


【 ヤクモ 】

「いえいえ……確かに、いささか慕われてはおりますが」


 苦笑まじりに手を振ってみせるヤクモ。


【 ヤクモ 】

「しかし、あくまで私は盟主という立場。強権を振るって、皆に命を懸けろと命じる権限はありませぬゆえ」


【 レツドウ 】

「そうか。……」


 レツドウは少し考えてみせたが、ややあって、


【 レツドウ 】

「ならば、しばし待つとしよう。どれほどかかる?」


【 ヤクモ 】

「まず、三日もあれば」


【 レツドウ 】

「よかろう」


【 ヤクモ 】

「……もうひとつだけお聞かせください。この件、レイ将軍は存じているので?」


 征南将軍にして、官軍の将帥であるレイ・グンムの名に、レツドウは軽く眉を動かした。


【 レツドウ 】

「いや、まだ伝えてはおらぬ。この一件は、すべて私の一存だ」


【 ヤクモ 】

「ほう……それはなにゆえに?」


【 レツドウ 】

「ことは秘密を要する。人の口に戸は立てられぬゆえな。万事まとまったうえで伝えるつもりだ」


【 ヤクモ 】

「左様ですか。……なに、かの者が和睦に不服となったら、面倒なことになると思いまして」


 官軍の総大将は、名目上は宰相レツドウではあるが、現在、実際に兵を動かしているのは将軍グンムである。

 もしもグンムがレツドウの意に逆らうような事態となれば、これは確かに厄介なことになるだろう。


【 レツドウ 】

「その心配は無用であろう。あれは野心のない男だ。官位を惜しみなく捨て、故郷にこもるほどにな」


【 レツドウ 】

「こたびの遠征も、いわば私が強引に引っ張り出してきただけ……あの男が、大それたことを図るとは思えぬ」


【 ヤクモ 】

「確かに、昔から欲のない男ではありました」


【 レツドウ 】

「さよう、案ずることはあるまいよ」


【 レツドウ 】

「……だが万が一、あやつが我が命に従わぬことがあったとしても、心配はいらぬ。すでに、手は打っておるゆえな」


【 ヤクモ 】

「……なるほど」


 さすがに抜け目がない、と言いたげにヤクモは頷く。


【 ヤクモ 】

「――心得ました。それでは先ほどの件、しばしお待ち願うとしましょう」


【 レツドウ 】

「うむ。吉報を待っておる」


 ――こうして、両軍の首脳同士の密談は終わりを告げた。


【 ヤクモ 】

「――それでは、我らはこれにて」


【 レツドウ 】

「うむ」


【 ゾダイ 】

「失礼、いたします」


 ヤクモとゾダイが席を立つ。


【 ユイ 】

「お見送りを――」


 と、ユイも立ち上がった。


【 ヤクモ 】

「なに、無用だ」


 と、老将は手で制し、若き侠客きょうかくへ微笑を向ける。

 *侠客……任侠の徒。


【 ヤクモ 】

「次に会うのは、戦場――ということにならねばよいがな」


【 ユイ 】

「……こちらこそ、そう願っております」


 深々と、虎王コオウ・ユイは一礼した。

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