◆◆◆◆ 8-19 廃立計画 ◆◆◆◆
とんでもない話だった。
つまりは、政変だ。
廃立……すなわち、皇帝ヨスガを玉座から追放し、新たな皇帝を立てるべし――という命令なのである。
【 レツドウ 】
「決して私心によって兵を起こしたわけではないこと、これでわかってもらえような?」
【 ヤクモ 】
「…………」
【 レツドウ 】
「信用できぬか?」
【 ヤクモ 】
「さて……正直に申せば、半信半疑、というところですな」
【 レツドウ 】
「ほう?」
【 ヤクモ 】
「閣下は、この密旨をいつ賜ったのです?」
【 レツドウ 】
「むろん、遠征を言上する前のことだ」
【 ヤクモ 】
「だとしたら――奇妙な話ですな」
【 ヤクモ 】
「聞くところでは、宮中における煌太后の権勢は絶大とか……であれば、天子の悪行を正すにあたり、わざわざ兵を用いる必要がありましょうか」
【 レツドウ 】
「…………」
【 ヤクモ 】
「まあ、そこは置いておくとしても……」
【 ヤクモ 】
「そのような密旨があるのならば、兵権を得た直後に実行すればよいだけのこと。わざわざ、このような千里の果てにまでやってくる理由がわかりませんな」
【 レツドウ 】
「ふむ。もっともな疑問ではある」
【 レツドウ 】
「まず最初の問いだが、主上は若年ではあるものの、なかなかの曲者であらせられる」
【 レツドウ 】
「先だって、皇叔閣下が謀叛を起こしたとして、自害に追い込まれたことがあったが……」
二年前の〈皇叔の変〉と呼ばれる事件である。
ヨスガの叔父にあたる〈焔・タクマ〉は、帝位を狙って挙兵するも武運つたなく敗れ、非業の死を遂げた。
【 レツドウ 】
「この変事も、皇叔閣下を挙兵にまで追い込んだのは、かの御方とその取り巻きどもだ、という話もある」
【 レツドウ 】
「そのうえ、叛乱軍を手なずけ、みやこの外に数万の私兵を養っているという噂もある」
【 レツドウ 】
「どうしてどうして、そうたやすく玉座から離れて頂けるような相手ではないのだ」
【 ヤクモ 】
「ほほう……?」
【 レツドウ 】
「そして、なぜここまで遠征してきたか――だが」
【 レツドウ 】
「もとより、貴公の力を借りるためだ」
【 ヤクモ 】
「それは、つまり――」
【 レツドウ 】
「さよう。我が官軍に、貴公らの軍勢を加えて、帝都へと馳せ戻り……」
【 レツドウ 】
「主上を廃し、新帝を立てる――と、いうわけだ」
【 ヤクモ 】
「……我らは、王朝に弓引く叛徒、ということになっておりますが?」
【 レツドウ 】
「もちろん、もはや罪を問いはせぬ。巡察使としての身分は保証しよう。否、ことが成就した暁には、さらなる栄誉も約束する」
【 ヤクモ 】
「…………」
【 ヤクモ 】
「今回の合戦、たまたま天候が崩れ、緒戦のみで膠着することになりましたが……それも、予測していたと?」
【 レツドウ 】
「そこは、私の領分ではないな」
と、ゾダイに目を向ける。
【 ゾダイ 】
「は――タイシン殿の占いにて、この期日には大雨が降り、したがって戦線は停滞する……と見越した上でのことにて」
【 ヤクモ 】
「……焦大人か。占いに長けた御仁とは聞いているが……」
【 ヤクモ 】
「――新帝とありますが、候補はもう決まっておられるので?」
【 レツドウ 】
「当然だ」
【 レツドウ 】
「亡くなった皇叔閣下には、嫡子がおられた。現在は、生死不明ということになっているが……」
【 ヤクモ 】
「ほう……生きておられると?」
【 レツドウ 】
「うむ」
と、今度はユイに視線を向ける。
【 ユイ 】
「はい。我が焦家にて、ひそかに匿っております」
【 ヤクモ 】
「ふむ……なるほど。準備は万端、というわけですな」」
【 レツドウ 】
「まだ得心はいかぬと見えるな」
*得心……納得するの意。
【 ヤクモ 】
「さて……なにせ、国家の大事なれば」
【 レツドウ 】
「それはそうだ。しかしどうあれ、そちらにとって悪い話ではあるまい」
【 レツドウ 】
「兵を動かすのは気が進まぬというなら、それもよい。和睦し、我らを見逃してくれるだけでかまわぬ」
【 ヤクモ 】
「……ふむ……」
【 レツドウ 】
「さて、返答はいかに? 翠将軍」
【 ヤクモ 】
「…………」
ヤクモは、しばし目を閉じて押し黙っていたが、やがて口を開いた――
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