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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
250/421

◆◆◆◆ 8-19 廃立計画 ◆◆◆◆

 とんでもない話だった。

 つまりは、政変クーデターだ。

 廃立はいりつ……すなわち、皇帝ヨスガを玉座から追放し、新たな皇帝を立てるべし――という命令なのである。


【 レツドウ 】

「決して私心によって兵を起こしたわけではないこと、これでわかってもらえような?」


【 ヤクモ 】

「…………」


【 レツドウ 】

「信用できぬか?」


【 ヤクモ 】

「さて……正直に申せば、半信半疑、というところですな」


【 レツドウ 】

「ほう?」


【 ヤクモ 】

「閣下は、この密旨をいつ賜ったのです?」


【 レツドウ 】

「むろん、遠征を言上ごんじょうする前のことだ」


【 ヤクモ 】

「だとしたら――奇妙な話ですな」


【 ヤクモ 】

「聞くところでは、宮中におけるコウ太后の権勢は絶大とか……であれば、天子の悪行を正すにあたり、わざわざ兵を用いる必要がありましょうか」


【 レツドウ 】

「…………」


【 ヤクモ 】

「まあ、そこは置いておくとしても……」


【 ヤクモ 】

「そのような密旨があるのならば、兵権を得た直後に実行すればよいだけのこと。わざわざ、このような千里の果てにまでやってくる理由がわかりませんな」


【 レツドウ 】

「ふむ。もっともな疑問ではある」


【 レツドウ 】

「まず最初の問いだが、主上おかみは若年ではあるものの、なかなかの曲者であらせられる」


【 レツドウ 】

「先だって、皇叔閣下が謀叛を起こしたとして、自害に追い込まれたことがあったが……」


 二年前の〈皇叔の変〉と呼ばれる事件である。

 ヨスガの叔父にあたる〈エン・タクマ〉は、帝位を狙って挙兵するも武運つたなく敗れ、非業の死を遂げた。


【 レツドウ 】

「この変事も、皇叔閣下を挙兵にまで追い込んだのは、かの御方とその取り巻きどもだ、という話もある」


【 レツドウ 】

「そのうえ、叛乱軍を手なずけ、みやこの外に数万の私兵を養っているという噂もある」


【 レツドウ 】

「どうしてどうして、そうたやすく玉座から離れて頂けるような相手ではないのだ」


【 ヤクモ 】

「ほほう……?」


【 レツドウ 】

「そして、なぜここまで遠征してきたか――だが」


【 レツドウ 】

「もとより、貴公の力を借りるためだ」


【 ヤクモ 】

「それは、つまり――」


【 レツドウ 】

「さよう。我が官軍に、貴公らの軍勢を加えて、帝都へと馳せ戻り……」


【 レツドウ 】

「主上をはいし、新帝を立てる――と、いうわけだ」


【 ヤクモ 】

「……我らは、王朝に弓引く叛徒、ということになっておりますが?」


【 レツドウ 】

「もちろん、もはや罪を問いはせぬ。巡察使としての身分は保証しよう。否、ことが成就した暁には、さらなる栄誉も約束する」


【 ヤクモ 】

「…………」


【 ヤクモ 】

「今回の合戦、たまたま天候が崩れ、緒戦のみで膠着こうちゃくすることになりましたが……それも、予測していたと?」


【 レツドウ 】

「そこは、私の領分ではないな」


 と、ゾダイに目を向ける。


【 ゾダイ 】

「は――タイシン殿の占いにて、この期日には大雨が降り、したがって戦線は停滞する……と見越した上でのことにて」


【 ヤクモ 】

「……ショウ大人たいじんか。占いに長けた御仁とは聞いているが……」


【 ヤクモ 】

「――新帝とありますが、候補はもう決まっておられるので?」


【 レツドウ 】

「当然だ」


【 レツドウ 】

「亡くなった皇叔閣下には、嫡子がおられた。現在は、生死不明ということになっているが……」


【 ヤクモ 】

「ほう……生きておられると?」


【 レツドウ 】

「うむ」


 と、今度はユイに視線を向ける。


【 ユイ 】

「はい。我がショウ家にて、ひそかにかくまっております」


【 ヤクモ 】

「ふむ……なるほど。準備は万端、というわけですな」」


【 レツドウ 】

「まだ得心とくしんはいかぬと見えるな」

 *得心……納得するの意。


【 ヤクモ 】

「さて……なにせ、国家の大事なれば」


【 レツドウ 】

「それはそうだ。しかしどうあれ、そちらにとって悪い話ではあるまい」


【 レツドウ 】

「兵を動かすのは気が進まぬというなら、それもよい。和睦し、我らを見逃してくれるだけでかまわぬ」


【 ヤクモ 】

「……ふむ……」


【 レツドウ 】

「さて、返答はいかに? スイ将軍」


【 ヤクモ 】

「…………」


 ヤクモは、しばし目を閉じて押し黙っていたが、やがて口を開いた――

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