◆◆◆◆ 8-18 密旨 ◆◆◆◆
【 ヤクモ 】
「ほう……?」
いくさを終わりにしないか――というレツドウの言葉に、ヤクモは驚きの色も見せない。
あらかじめ、予想していたのであろう。
【 レツドウ 】
「より正確に言えば――和睦せぬか、ということだ」
【 ヤクモ 】
「ふむ……」
白髪交じりの髭をしごきつつ、ヤクモは淡々としている。
【 ユイ 】
(――やはり、そういう話か)
ここで初めてレツドウの意を知ったユイもまた、さほど驚くことはなかった。
敵の総大将であるヤクモと直接会談してまで話すことといったら、それしかない、といっていい。
【 レツドウ 】
「そちらとて、いくさは望むところではあるまい?」
【 ヤクモ 】
「もとより、そうですとも。なにせ、仕掛けてきたのはそちら。我らは、降りかかる火の粉を払っているだけなのですからな」
【 ヤクモ 】
「いくさを望まぬ――とのことなら、話は早い。さっさと荷物をまとめて引き上げればよろしいのでは?」
【 レツドウ 】
「だが、おめおめと見逃してはくれぬであろう?」
【 ヤクモ 】
「それはそうです。いくさのならい、というものですからな。逃げる者は、追い討つまで」
【 ヤクモ 】
「よしんば、私がそうせぬとしても、我が傘下に集まった者どもは、止めても聞かぬことでしょう」
【 レツドウ 】
「ふむ。さもあろうな」
【 ヤクモ 】
「――そもそも、この遠征を朝廷にて建議したのは、閣下だと聞いておりますが?」
【 レツドウ 】
「その通りだ」
悪びれた様子もなく、頷いてみせる。
【 レツドウ 】
「私が兵権を手にするには、それしかなかったゆえな」
【 ヤクモ 】
「――わかりませぬな」
首を振ってみせる。
【 ヤクモ 】
「わざわざ大軍を率いて、はるばる遠征してきておきながら、なぜ、ろくに戦いもせずに和睦を望まれる?」
【 レツドウ 】
「むろん、ただの気まぐれや苦し紛れの行いではない。これも大義あってのことだ」
と、レツドウは居住まいを正すと、おもむろに懐から書状を取り出し、ヤクモに披露する。
【 ヤクモ 】
「――――っ」
さしもの南寇王も、目を見開く。
【 ヤクモ 】
「令旨ですか。それも、これは――」
*令旨……皇族などが出す命令書の意。
【 レツドウ 】
「さよう――皇太后陛下より授かった、密旨である」
*密旨……秘密裏に発された命令。ここでは令旨を指す。
その密旨にいわく――
――天子ヨスガに、謀叛の兆しあり。
――我(煌太后)を害し、権を専らにせんと企てている。
――汝、兵をもってこれを正し、新帝を立てよ。
【 ユイ 】
(…………!)
今度ばかりは、ユイは驚愕した。
【 ユイ 】
(新帝の、擁立だと……!?)
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