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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
244/421

◆◆◆◆ 8-13 尼僧と侠士 ◆◆◆◆

【 ユイ 】

「本当に酒を持ってきた方がよかったですかね」


【 女 】

「アハハ! ご冗談を――このゾダイ、戒律を破ったりはいたしマセン! ええ、いたしマセンとも!」


 そう言って笑うこの尼は、大萬天ダイマンテン・ゾダイ。

 北方の深牙しんがの民にして、〈三貴の教え〉と呼ばれる宗教の尼僧である。

 飲酒は戒律で禁じられており、先ほどのやりとりは、ユイとの間の合言葉にすぎない……はずである。


【 ユイ 】

「朝から精が出ることで」


【 ゾダイ 】

読経ドキョーは大事ですのデ! 最近は新たに信徒も増えてきマシて、ありがたいかぎりデス!」


【 ユイ 】

「それはまた……」


【 ユイ 】

(……ずいぶん呑気なもんだな)


 半ば呆れ、半ば感心する。

 間諜スパイまがいの立場でありながらも、すっかり馴染んでいるようだ。

 もっとも、三貴教の尼僧であることには違いないし、疑われる心配は少ないのだろうが。


【 ユイ 】

「それで、会見の日取りと場所ですが……」


【 ゾダイ 】

「そのことデスが……いっそ、先方にこちらに来てもらってはいかがデス?」


【 ユイ 】

「いやいや、無茶言わないでくださいよ。どうやって連れてこいって言うんです?」


【 ゾダイ 】

「えー? でも以前、侠士殿は、拙僧セッソーをこちらへ連れてきてくれたではありマセンか」


 先だって、タイシンから頼まれた一件に、

 『ある人物と同行して、敵陣まで送り届ける』

 というものがあった。

 他でもない、このゾダイこそがその対象だったのである。 


【 ユイ 】

「あの時は、今みたいに河が荒れてなかったでしょうに……」


 ゆえに、彼女を背に負って、河を渡ってくることもできたのだが、男女では体格も異なるし、なにより……


【 ユイ 】

(あの宰相閣下が、そんな危ない橋を渡るとも思えんしな)


 まあ、他にどうしようもないとなれば、話は別かもしれないが。


【 ユイ 】

「うんと川下まで大回りすれば、渡って来れなくもありませんが……そうなると何日もかかってしまうし、その間、不在になるのはまずいでしょう」


【 ゾダイ 】

「まア、そうデショウ! デスので、すでに場所と時間は決めさせてもらいマシタ」


 と、書付メモを取り出す。


【 ユイ 】

(……もう決まってるのかよ)


 内心でボヤきつつ、受け取って目を通す。


【 ゾダイ 】

「もちろん、これはあの方からの案デスが……」


【 ユイ 】

「…………!」


 手渡された書付を見て、ユイは一驚した。


【 ユイ 】

「……本当に、これでいいんですか?」


【 ゾダイ 】

「あの御仁が、戯れを口にするとは思えマセン」


【 ユイ 】

「……それはそうでしょうな。しかし、こちらはいいとして、あの方はどうやってここに行くつもりなんです?」


【 ゾダイ 】

「さぁ? まさか、侠士殿のごとく、分身の術など使えるとは思えマセンが……」


【 ユイ 】

「それに、あなたも来るんでしょう?」


【 ゾダイ 】

「当然デス、立会人デスので!」


 ますます、わからなくなってきた。


【 ユイ 】

「……陣中に方士がいるとか?」


 方術を使えば、ひとりやふたり、河を渡ることは難しくないだろうが……


【 ゾダイ 】

「さて……? それらしい者は、見かけたことがないデスね」


【 ユイ 】

「…………」


 しばし迷ったものの、


【 ユイ 】

「……ともあれ、先方に伝えてみましょう。その後は……」


【 ゾダイ 】

「ええ、当日、お会いしまショウ!」


【 ユイ 】

「…………」


【 ゾダイ 】

「おや……どうされマシタ? 用件は、もう終わったかと思いマスが」


【 ユイ 】

「ええ……そうなんですがね」


【 ユイ 】

「これは、単なる雑談だと思って欲しいんですが……ちょっと尋ねたいことがあるんですよ。構いませんか?」


【 ゾダイ 】

「ええ、拙僧に答えられることなら、喜んデ!」


【 ユイ 】

「それじゃあ……ちとお尋ねしますが」


 ユイは身を乗り出して、いっそう声を潜めた……

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