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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
242/421

◆◆◆◆ 8-11 護国の誓い ◆◆◆◆

【 静夜夫人せいやふじん 】

「そうだ。私は商人ではあるが、ただ、己の利だけを考えているわけではない」


【 静夜夫人 】

「この国を……この天下をまもるために、動いている。きみに、その手助けを頼みたい」


 大仰な話だが、女は大まじめに語っている。


【 朽縄くちなわ 】

「――――っ……」


【 静夜夫人 】

「さて、どうかな?」


【 朽縄 】

「……本当、なのか?」


【 静夜夫人 】

「ん?」


【 朽縄 】

「本当に――あんたは……天下のために、働いてるのか?」


【 静夜夫人 】

「ああ、これは誓ってもいい。もし、私が道を外れていると思ったなら、離れるなり、この首を獲りに来るなり、好きにすればいい」


【 朽縄 】

「…………」


【 朽縄 】

「あんたはさっき……占いで俺が来るのがわかった、って言ってたな。あれは……本当か?」


【 静夜夫人 】

「そうだね、あれは半ばは本当で、半ばは嘘だ」


【 朽縄 】

「…………っ?」


【 静夜夫人 】

「私が占いを得意としているのは事実だ。しかし、今宵、きみがここに来たのは、私の差し金さ」


【 朽縄 】

「……やっぱり、裏切り者がいるってことか」


【 静夜夫人 】

「人聞きが悪いな。内通者と言って欲しいね」


 朽縄の言葉に、女は苦笑する。


【 朽縄 】

「同じようなもんだろうがッ……」


【 静夜夫人 】

「まあまあ。それで、どうするね? このまま猟犬のように、上に言われるまま生きるのか、また別の人生を送るのか。二つに一つだ」


【 朽縄 】

「――――っ」


 心が動かないはずはない。

 このまま、人殺し稼業を続けるより、ずっとやりがいのありそうな道ではある。

 しかし……


【 朽縄 】

「……楽な生き方を選べ、っていうのか?」


【 静夜夫人 】

「そうは言わない。なぜなら、私たちと共に行く方が、ずっと困難な道だからね」


【 静夜夫人 】

「過酷さは、これまでの比ではないよ。なにしろ、人を殺すより、人を生かす方がずっと難しいことだ」


【 朽縄 】

「…………」


【 静夜夫人 】

「それでもなお、きみがこちらを選ぶというなら、それもいい。断るなら、もとの商売を続ければいいだけさ」


【 朽縄 】

「…………っ」


【 朽縄 】

「……話は、わかった」


【 静夜夫人 】

「ほう、その顔からすると、引き抜きに応じてくれるつもりのようだね。めでたいことだ」


【 朽縄 】

「……だが……」


【 静夜夫人 】

「なにか、心配事でもあるのかな?」


【 朽縄 】

「……っ、里を、裏切るのは……」


【 静夜夫人 】

「ああ、そういうことか。なに、心配はいらないよ」


【 静夜夫人 】

「実は、もう聖真理会せいしんりかいと話はつけてあるんだ」


 あっさりと、重大なことを告げてきた。


【 朽縄 】

「……はッ……?」


【 静夜夫人 】

「きみの“移籍金”は、すでにあちらに支払ってある。快く……かどうかはわからないけれど、ちゃんと身柄を譲ってくれたとも」


【 静夜夫人 】

「だから、裏切り者呼ばわりされる心配はないさ。もし里帰りするときがあれば、ちょっと気まずいかもしれないけれど」


【 朽縄 】

「……っ、ぁ、あんたは……いったい……?」


【 静夜夫人 】

「ふむ、今さら隠すこともないか」


 静夜夫人と名乗っていた女は、ゆっくりと近寄ってきて、朽縄の手を取った。


【 静夜夫人 】

「私は〈ショウ・タイシン〉という。天下を巡る旅商人、というところさ」


【 朽縄 】

「ッ! では、ショウ家のッ……」


 天下の物資流通を一手に担う、ショウ家の一族。

 タイシンは、その中でも屈指の有力者として名高い。


【 タイシン 】

「まあね。だが、私がきみと共に行うのは、金儲けではない。……まあ、たまにはそれも必要だけれども」


【 タイシン 】

「先ほども言った通り、天下の、国を護るため――だ。手伝ってくれるね?」


【 朽縄 】

「……ッ、なんだか、まんまと騙されてる気がするッ……気がする、が……」


 朽縄は、タイシンの手を握り返す。

 いつしか、四肢の自由は戻っていた。


【 朽縄 】

「あんたを、信じてみよう。――今は」


【 タイシン 】

「それで結構だ」


 タイシンは微笑した。


【 タイシン 】

「――ではさっそくだが、アカシ、よろしく頼むよ」


【 アカシ 】

「いやはや……かしこまりました、お嬢さま」


【 朽縄 】

「――うおッ!? な、なにをッ!?」


 いきなり首根っこを掴まれ、引き起こされる。


【 タイシン 】

「きみは素質はいいが、まだまだ青い。しばらく、アカシに鍛えてもらうといい」


【 アカシ 】

「やれやれ。まあ、死なないていどにしごいてやるとしましょう」


【 朽縄 】

「ちょッ……お、おおおッ……!?」


 アカシに引きずられながら、若者は、早くもいささか後悔しつつあったのだった――




 ――それから、アカシの下で修行を重ねて。

 童子はいつしか名を〈虎王コオウ・ユイ〉と改め、幾多の武勇伝を重ね、世に〈風雲忍侠ふううんにんきょう〉の異名で知られるようになったのである。

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