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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
241/421

◆◆◆◆ 8-10 勧誘 ◆◆◆◆

【 朽縄くちなわ 】

「な、なんだ――今のはッ……!?」


 背後へ跳び退る。


【 静夜夫人せいやふじん 】

「いや、胆が冷えた。……久しぶりに見たよ、影の術。〈彩雲剣侠さいうんけんきょうシャク・アカシの手並みは健在だね」


【 アカシ 】

「やれやれ……お恥ずかしい。いささか甘く見過ぎましたね」


 年長の女は、傷ひとつついてはいない。


【 朽縄 】

「…………ッ」


 忍びの技にもいろいろあるが、それはあくまで、心技を鍛えることで使えるようになるものである。

 だが、今のは、そんな域ではなかった。


【 朽縄 】

「き、貴様……妖術師かッ……!?」


【 アカシ 】

「いやいや、私もお前さんと同じ、忍びの者ですよ。まあ、ちょいと年の功があるというだけでね」


 などと言いながら、木の棒を握り直して。


【 アカシ 】

「さてさて……次は、こちらから」


【 朽縄 】

「…………ッ!」


 女がゆっくりと歩を進めてくる。

 隙だらけでありながら、


【 朽縄 】

(なんだ……この感じはッ……)


 先ほどの二の舞にはなるまいかと、手足が縮こまってしまう。

 それでも、気迫を奮い起こし――


【 朽縄 】

「うおおッ……!」


 がむしゃらな勢いで、刃を振り下ろす。

 女は、大ぶりな斬撃を軽やかにかわすと、


【 アカシ 】

「まあまあ、ちょいとお座り」


 ――ポン。


 と、朽縄の膝を軽く打った。


【 朽縄 】

「……うッ!?」


 そのただ一撃で、朽縄は力が抜け、床にへたり込んでしまう。


【 朽縄 】

「うぬ――ううッ!?」


 ピタリ……


 女の指先が、朽縄の額に押し当てられている。

 それだけのことで、指一本、動かすことができない。


【 朽縄 】

(なんだ……これはッ……!?)


【 朽縄 】

「ぐぐッ……ぐううッ……!」


 金縛りにあったかのように、唸り声を漏らすばかりだ。


【 アカシ 】

「さてはて……お嬢さま、お待たせしました」


【 静夜夫人 】

「ご苦労さま、アカシ。さて……」


【 朽縄 】

「…………っ」


 静夜夫人と名乗った女が、歩み寄ってくる。


【 静夜夫人 】

「さっきの話の、続きといこうじゃないか」


 床に腰を下ろし、朽縄の顔を覗き込んでくる。


【 静夜夫人 】

「きみの手並み、見せてもらったよ」


【 朽縄 】

「…………っ」


【 静夜夫人 】

「まだまだ粗削りではあるけれど、見事なものだ。ますます、きみが欲しくなった」


【 静夜夫人 】

「それで、改めての提案だが……私のところに来ないか? その方が、面白いことになると思うなあ」


【 朽縄 】

「…………っ」


【 静夜夫人 】

「……アカシ、もしかして、喋れないようにしてるのか?」


【 アカシ 】

「ええ、ええ。さっきみたいに、針を吐かれたりすると面倒ですので」


【 静夜夫人 】

「それは困るな。会話はできるようにしてあげてくれ」


【 アカシ 】

「おやおや、毒針を刺されても知りませんよ」


 と言いつつ、年かさの女は朽縄の額を軽く突き、身を離した。


【 朽縄 】

「……っ、はぁっ、はぁあっ……」


 口はきけるようになったが、手足には力が入らない。


【 静夜夫人 】

「さて、どうするね――おっと、そういえば名前をまだ聞いてなかったな。教えてくれるかい?」


【 朽縄 】

「……名乗る名など、ない……あっても、名乗りはせんッ……!」


【 静夜夫人 】

「まあ、そうだろうね」


【 静夜夫人 】

「では刺客どの、考えは変わったかな?」


【 朽縄 】

「ふ、ふざけるなッ……忍びたる者が、裏切りなどッ……!」


【 静夜夫人 】

「ふむ、それもまた道理だ」


【 アカシ 】

「……はてさて、お嬢さま、説得するつもりがあるのですか?」


【 静夜夫人 】

「いやいや、まだ話はこれからさ」


【 静夜夫人 】

「きみは、己を忍びの者と自負しているようだけれど……しかし、やっているのは事実上、ただの殺し屋ではないかな。違うかい、朽縄くん?」


【 朽縄 】

「…………ッ」


 己の名すら知られていると悟り、愕然となる。


【 静夜夫人 】

「今のまま、人殺しを生業なりわいにして生きていくのは、きみも望むところではないんじゃないかな」


【 朽縄 】

「……い、今は……雌伏しふくのとき、ゆえに……」

 *雌伏……将来のために機会を待つの意。


【 静夜夫人 】

「まぁ、里の者はそう言うだろうね。だが、それが真実かどうかは、きみも薄々、わかってるんじゃないか?」


【 朽縄 】

「…………っ」


【 静夜夫人 】

「それだけの忍びの腕を持ちながら、ただの暗殺者として終わるのは、惜しいとは思わないか? 私は、惜しいと思うがね」


【 朽縄 】

「…………」


【 静夜夫人 】

「私の同志となっても、ときにはそうした物騒な役目を任せることがあるかもしれない。だが、決して強制はしないつもりだ」


【 静夜夫人 】

「――どうかな、朽縄くん。私と共に、天下を動かしてみたいと思わないか?」


【 朽縄 】

「て、天下っ……?」

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