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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
24/421

◆◆◆◆ 2-14 薄明の結義 ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「……と、まあ、さんざん脅かしたが」


 ふいに、肩をすくめてみせるヨスガ。


【 ヨスガ 】

「最初に言った通り、そなたにはふたつの道がある。ここを離れて市中で励むか、もしくは我の妹となり、その生涯を我に捧げるかだ」


【 ホノカナ 】

「あまりにも後者が重いのですが……!?」


 などと、言いつつも。


【 ホノカナ 】

「……臣、リン・ホノカナ、このうえは陛下を姉上として、身を捧げる覚悟でございます。生涯をかけて」


【 ヨスガ 】

「うむ――」


 と、答えつつも。


【 ヨスガ 】

「……しかしだな。これは重要な決断ぞ。一晩くらいは考えてみたほうがよいのではないか?」


【 ホノカナ 】

「え、ええっ……?」


【 セイレン 】

「ちょっと陛下~、どうしてそこで日和っちゃうんですか? もう一気に! 決めちゃいましょうよ~」


【 ヨスガ 】

「そうは言うがな……」


【 ホノカナ 】

「――もとより、この身は国家に捧げるつもりでまいりました。わたしがお役に立てるのならば、いかなる苦難もいといません!」


 ヨスガの目をじっと見ながら、訴える。


【 ヨスガ 】

「――そうか」


 今度こそ、ヨスガはうなずいて、


【 ヨスガ 】

「ミズキ、盃を」


【 ミズキ 】

「承知いたしました」


 ミズキが、両者に盃を渡す。

 盃に注がれた水を飲んだあと、盃を取り換え、再び飲み干す。

 そのうえで、


【 ヨスガ 】

「我、エン・ヨスガと――」


【 ホノカナ 】

「あっ、わ、わたし、リン・ホノカナは――」


【 ヨスガ 】

「いついかなる時も助け合い、慈しみ合い――」


【 ホノカナ 】

「天に替わって義を行い、忠と義をつらぬいて――」


【 ふたり 】

『その身果つるその日まで、ともにゆかん――』


 これにて、結拝の儀式は終わりであった。


【 ホノカナ 】

「……あれ、これだけでいいんですか? お酒を飲んだり、お互いの血を啜り合ったりとかは……?」


【 ヨスガ 】

「昔はそうしておったようだな。なにごとも簡略化されるのは時の流れというものよ」


【 ホノカナ 】

「そうなんですね……」


 なにはともあれ。


【 ヨスガ 】

「これからは、我を姉と敬うがよい! もっとも、他の者の前では断じて口にしてはならぬぞ」


【 ホノカナ 】

「は、はい……えっと、逆に言ってもいいのは?」


【 ヨスガ 】

「ここにいる二人と……あとは、ランブくらいか。それ以外の前では決して口外してはならぬ。よいな?」


【 ホノカナ 】

「わかりました、陛下!」


【 ヨスガ 】

「そこは『ヨスガ姉さま』であろうが~っ!」


【 ホノカナ 】

「ご、ごめんなさい、よ、ヨスガ……姉……さま!」


【 ヨスガ 】

「ふむ、それでよし!」


 いたく、ご満悦のようであった。


【 ヨスガ 】

「では、術の方だが……」


【 セイレン 】

「ああ、ご心配なく。とっくにかけておきました! なにしろ、鼻水をかむほどに簡単な術ですゆえ!」


【 ホノカナ 】

「そ、そうなんですね……うう……」


 かくして、ホノカナの長い長い一日が明けて……


【 ヨスガ 】

「――見よ、薄明はくめいのときだ」


 地平線のかなたに、日がのぼる。


【 ヨスガ 】

「必ずや、夜は明ける――そのために、我に手を貸すがいい、妹ホノカナ!」


【 ホノカナ 】

「はい、陛……よ、ヨスガ姉さま……!」




【 セイレン 】

「いやはや、実に感動的な光景なれば!」


【 ミズキ 】

「……アイ老師」


【 セイレン 】

「おや、どうなされた女官長殿?」


 ふたりを見守るセイレンに、ミズキが音もなく近づいていた。


【 ミズキ 】

「さきほどの術ですが……本当に、仕掛けられたのでしょうね?」


【 セイレン 】

「わははは! もちろんですとも?」


【 ミズキ 】

「……それなら結構ですが」


 その声音には、虚言ならばただではおかぬ、という響きがこもっていた。


【 セイレン 】

「それにしても――」


【 ミズキ 】

「……なにか?」


【 セイレン 】

「妹に迎えるということは、陛下は彼女を己の〈分身〉としたも同然……そこまで見込みがあると?」


【 ミズキ 】

「私は、陛下の判断に従うのみです」


【 セイレン 】

「フム……いやはやしかし、こうしてエン氏とリン氏の末裔が手を取り合うことになるとは、なんとも数奇なめぐりあわせではありませんか!」


【 ミズキ 】

「……エン氏はさておき、リン氏は星の数ほどおりましょう」


【 セイレン 】

「さよう、しかし、この乱れた世にあって、次代を担う乙女たちが契りを交わすというのは、それだけでも尊いことではありましょう!」


【 ミズキ 】

「…………」


【 セイレン 】

「……ああ、そういえば、先ほどの射手をたおした腕前は見事でしたな! まぁ、あの軌道ではもとより外れていたでしょうが……」


【 ミズキ 】

「あれは、私ではありません」


【 セイレン 】

「ほう? では、誰が――?」


【 ミズキ 】

「さて……物好きないたずら者ではないでしょうか」


 と、ミズキはチラリと視線を横に向ける。

 ――その先には、すでになんの気配もなかった。

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