◆◆◆◆ 2-14 薄明の結義 ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「……と、まあ、さんざん脅かしたが」
ふいに、肩をすくめてみせるヨスガ。
【 ヨスガ 】
「最初に言った通り、そなたにはふたつの道がある。ここを離れて市中で励むか、もしくは我の妹となり、その生涯を我に捧げるかだ」
【 ホノカナ 】
「あまりにも後者が重いのですが……!?」
などと、言いつつも。
【 ホノカナ 】
「……臣、鱗・ホノカナ、このうえは陛下を姉上として、身を捧げる覚悟でございます。生涯をかけて」
【 ヨスガ 】
「うむ――」
と、答えつつも。
【 ヨスガ 】
「……しかしだな。これは重要な決断ぞ。一晩くらいは考えてみたほうがよいのではないか?」
【 ホノカナ 】
「え、ええっ……?」
【 セイレン 】
「ちょっと陛下~、どうしてそこで日和っちゃうんですか? もう一気に! 決めちゃいましょうよ~」
【 ヨスガ 】
「そうは言うがな……」
【 ホノカナ 】
「――もとより、この身は国家に捧げるつもりでまいりました。わたしがお役に立てるのならば、いかなる苦難もいといません!」
ヨスガの目をじっと見ながら、訴える。
【 ヨスガ 】
「――そうか」
今度こそ、ヨスガはうなずいて、
【 ヨスガ 】
「ミズキ、盃を」
【 ミズキ 】
「承知いたしました」
ミズキが、両者に盃を渡す。
盃に注がれた水を飲んだあと、盃を取り換え、再び飲み干す。
そのうえで、
【 ヨスガ 】
「我、焔・ヨスガと――」
【 ホノカナ 】
「あっ、わ、わたし、鱗・ホノカナは――」
【 ヨスガ 】
「いついかなる時も助け合い、慈しみ合い――」
【 ホノカナ 】
「天に替わって義を行い、忠と義をつらぬいて――」
【 ふたり 】
『その身果つるその日まで、ともにゆかん――』
これにて、結拝の儀式は終わりであった。
【 ホノカナ 】
「……あれ、これだけでいいんですか? お酒を飲んだり、お互いの血を啜り合ったりとかは……?」
【 ヨスガ 】
「昔はそうしておったようだな。なにごとも簡略化されるのは時の流れというものよ」
【 ホノカナ 】
「そうなんですね……」
なにはともあれ。
【 ヨスガ 】
「これからは、我を姉と敬うがよい! もっとも、他の者の前では断じて口にしてはならぬぞ」
【 ホノカナ 】
「は、はい……えっと、逆に言ってもいいのは?」
【 ヨスガ 】
「ここにいる二人と……あとは、ランブくらいか。それ以外の前では決して口外してはならぬ。よいな?」
【 ホノカナ 】
「わかりました、陛下!」
【 ヨスガ 】
「そこは『ヨスガ姉さま』であろうが~っ!」
【 ホノカナ 】
「ご、ごめんなさい、よ、ヨスガ……姉……さま!」
【 ヨスガ 】
「ふむ、それでよし!」
いたく、ご満悦のようであった。
【 ヨスガ 】
「では、術の方だが……」
【 セイレン 】
「ああ、ご心配なく。とっくにかけておきました! なにしろ、鼻水をかむほどに簡単な術ですゆえ!」
【 ホノカナ 】
「そ、そうなんですね……うう……」
かくして、ホノカナの長い長い一日が明けて……
【 ヨスガ 】
「――見よ、薄明のときだ」
地平線のかなたに、日がのぼる。
【 ヨスガ 】
「必ずや、夜は明ける――そのために、我に手を貸すがいい、妹ホノカナ!」
【 ホノカナ 】
「はい、陛……よ、ヨスガ姉さま……!」
【 セイレン 】
「いやはや、実に感動的な光景なれば!」
【 ミズキ 】
「……藍老師」
【 セイレン 】
「おや、どうなされた女官長殿?」
ふたりを見守るセイレンに、ミズキが音もなく近づいていた。
【 ミズキ 】
「さきほどの術ですが……本当に、仕掛けられたのでしょうね?」
【 セイレン 】
「わははは! もちろんですとも?」
【 ミズキ 】
「……それなら結構ですが」
その声音には、虚言ならばただではおかぬ、という響きがこもっていた。
【 セイレン 】
「それにしても――」
【 ミズキ 】
「……なにか?」
【 セイレン 】
「妹に迎えるということは、陛下は彼女を己の〈分身〉としたも同然……そこまで見込みがあると?」
【 ミズキ 】
「私は、陛下の判断に従うのみです」
【 セイレン 】
「フム……いやはやしかし、こうして焔氏と鱗氏の末裔が手を取り合うことになるとは、なんとも数奇なめぐりあわせではありませんか!」
【 ミズキ 】
「……焔氏はさておき、鱗氏は星の数ほどおりましょう」
【 セイレン 】
「さよう、しかし、この乱れた世にあって、次代を担う乙女たちが契りを交わすというのは、それだけでも尊いことではありましょう!」
【 ミズキ 】
「…………」
【 セイレン 】
「……ああ、そういえば、先ほどの射手を斃した腕前は見事でしたな! まぁ、あの軌道ではもとより外れていたでしょうが……」
【 ミズキ 】
「あれは、私ではありません」
【 セイレン 】
「ほう? では、誰が――?」
【 ミズキ 】
「さて……物好きないたずら者ではないでしょうか」
と、ミズキはチラリと視線を横に向ける。
――その先には、すでになんの気配もなかった。
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