◆◆◆◆ 8-8 静夜夫人 ◆◆◆◆
【 朽縄 】
「――――っ」
とっさに、周囲を見渡す。
【 静夜夫人 】
「ああ、心配には及ばないよ。身内に裏切られたわけじゃない」
【 静夜夫人 】
「きみがここに来ると私が知ったのは、占いによってだからね」
【 朽縄 】
「…………っ」
【 静夜夫人 】
「おやおや、信じられない……という顔をしているね。まあ、無理もないか」
【 静夜夫人 】
「私は、いささか占いの心得があるんだよ。それで、今夜の出来事をあらかじめ知ることができた、というわけだ」
【 静夜夫人 】
「ただ、なんでも占えるわけではないけれどね。特に、自分のことはほとんど当たらないんだ。世の中、ままならないものさ」
【 朽縄 】
「…………」
【 静夜夫人 】
「おや、自分のことが占えないのに、なぜこの俺がここに来るとわかったんだ――とでも言いたげだね」
【 静夜夫人 】
「それは、私にもわからないけれど……思うにきっと、この出会いが私ではなく、きみにとって重大なものになるから、ではないかな。まあ、多分だけれど」
【 朽縄 】
「…………っ」
【 静夜夫人 】
「おいおい、物騒なものを持ち出すのは待ってくれ。もう少し付き合ってくれてもいいじゃないか」
【 朽縄 】
(なんなんだ、こいつはっ……?)
朽縄は、匕首を握り締めたまま、困惑していた。
飄飄としていて、まるで怯えた様子もない。
【 朽縄 】
(占い、だと……? ふざけているッ……!)
占術というものがあることくらいは、彼も心得ている。
だが、にわかに信じられるものでもない。
【 朽縄 】
(……いや、四の五の悩む必要はない。さっさと始末してしまえば……!)
それが任務だ。
今まで、一度たりとも、しくじったことはない。
【 朽縄 】
「…………っ」
だが、なぜか一歩を踏み出せない。
この女の戯言に、惑わされているのか?
などと、考えを巡らせているところへ。
【 静夜夫人 】
「さて、少し落ち着いてきたかな? それじゃあ、さっそく本題に入ろう」
【 朽縄 】
「…………っ?」
【 静夜夫人 】
「私も暇ではないのでね。単刀直入に言おう」
【 静夜夫人 】
「私は、きみが欲しい。私の部下……いや、違うな。私の同志になってくれないか?」
【 朽縄 】
「……はぁっ?」
黙っているつもりだったが、思わず声が出てしまう。
【 静夜夫人 】
「もちろん、タダでとは言わないよ。手付金として、こんなところでどうかな?」
と、重そうな袋を取り出し、中身を見せる。
そこには、まばゆいほどの金子が詰まっていた。
【 朽縄 】
「…………っ」
あまりのことに、しばし理解が追いつかなかったが、
【 朽縄 】
「ふ――ふざけるなッ……!」
【 静夜夫人 】
「おや、買収はお気に召さないようだね」
【 朽縄 】
「いい加減にしろッ……!」
匕首を構え、女に狙いを定める。
【 静夜夫人 】
「まあ、万事がカネで話がつくなら、世の中、もっと簡単だからね。……仕方ない、別の方法にしよう」
【 朽縄 】
「――――ッ!」
もはやそれ以上喋らせまいと、朽縄は一気に距離を詰め、女の白い喉笛を掻っ切ろうとする――
【 静夜夫人 】
「――――」
――ガキィンッ!
【 朽縄 】
「なッ……!?」
得物まであと数歩、というところで。
朽縄の凶刃は、受け止められていた。
【 ???? 】
「――やれやれ。お戯れがすぎますよ、お嬢さま」
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