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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
233/421

◆◆◆◆ 8-2 報告 ◆◆◆◆

 すでに日も落ちた頃。

 幕僚らを帰したのち、グンムはひとり、書物に目を通していた。

 と、天幕の外でしわぶきの音がする。

 *しわぶき……咳払いの意。


【 グンム 】

「入られよ」


 書物を閉じながら呼びかける。


【 ユイ 】

「――ただいま、戻りました」


 音もなくグンムの幕舎に入ってきたのは、〈虎王コオウ・ユイ〉。

 グンムと親交のある天下の政商〈(ショウ)・タイシン〉の配下であり、〈風雲忍侠ふううんにんきょう〉の異名で知られる。


【 グンム 】

「おお、戻られたか。ご無事でなにより」


【 ユイ 】

「いえ、俺にできることといったら、この程度のことですから」


【 グンム 】

「なんの、すこぶる助かりますとも」


 ユイに席を勧めつつ、


【 グンム 】

「陣中ゆえ、さしたるものもありませんが……」


 手ずから酒肴を用意し、ねぎらってくる。

 一軍の将からのもてなしに、さすがにやや恐縮するユイ。


【 ユイ 】

(相変わらず、将軍とは思えない御仁だな)


 しかし、こういうざっくばらんなところが、将兵の心を掴むやり方でもあるのだろう。

 幾度か盃を重ねたところで、


【 グンム 】

「それで、南軍の様子は?」


 ユイはグンムの依頼で、ヤクモ軍へ潜入し、様子をうかがってきたところなのである。

 隠形おんぎょうの術にすぐれたユイにとっては、朝飯前……とはいかずとも、さほどの難事ではない。


【 ユイ 】

「今のところ、大きな動きはないようです」


【 グンム 】

「ふむ……やはり、長期戦の構えかな?」


【 ユイ 】

「と、見ました。気短な〈飛鷹ひよう〉の兵らは、今か今かと逸っている様子でしたが」


【 グンム 】

「さもあろう。連中が暴走してくれれば楽だが……そうもいくまいなあ」


 その後、いくつかの問答の末。


【 グンム 】

「いや、ありがたい。おかげで助かり申した。今宵はごゆるりとお休みくだされ」


【 ユイ 】

「は、それでは……」


 ユイは一礼して、幕舎を出ていった。


【 グンム 】

「…………」


 その後ろ姿を見送りつつ、グンムはしばし物思いに耽っていた……




 グンムの幕舎を出たユイは、そのまま己にあてがわれた幕舎へと足を向けた……が、ほどなく、隠形の術で闇に溶けた。

 再びその姿が現れたのは、宰相レツドウの幕舎においてである。


【 レツドウ 】

「戻ったか。ずいぶん遅かったようだが」


【 ユイ 】

「先に、レイ将軍への報告を済ませてきましたので」


【 レツドウ 】

「征南将軍はどうしている?」


【 ユイ 】

「さて……まだ動くつもりはないようです」


【 レツドウ 】

「ふむ。こちらの動きに気づいている様子は?」


【 ユイ 】

「今のところはなさそうですが……読めません。食えぬ御仁ですから」


【 レツドウ 】

「で、あろうな」


【 ユイ 】

「…………」


 ユイはタイシンの命で、グンムのみならず、レツドウとも気脈を通じていた。

 それどころか、優先順位で言えばレツドウの方が上、ということになる。


【 ユイ 】

あねさんからの言いつけではあるが……)


 あまりいい気分ではないのは確かだ。

 どちらかといえば、ユイはグンムの方に心を寄せている。

 レツドウは、なるほど政治手腕はあるのだろうが、


【 ユイ 】

(どうにも、ソリが合いそうにもない)


 それが、ここしばらく接してみての感想であった。

 べつだん、露骨に見下した態度を取られるわけではないのだが……


【 ユイ 】

(きっと、一緒に酒を飲んでもうまくないだろうなあ)


 幸か不幸か、これまで酒肴を勧められたことはなかったが。

 グンムの方とて、決してなんの計算もなく自分に接しているわけでもなかろうが、それを匂わせないのは人柄というべきだろうか。

 結局、こればかりは、相性というべきかもしれない。


【 ユイ 】

(とはいえ……だ)


 大恩あるタイシンからの頼みとあらば、断ることもできない。

 そうはいっても、タイシンの真意は相変わらず読めないものがある。


【 ユイ 】

(あれだけ担ぎ出すのに一苦労したからには、レイ将軍をよほど買ってるのかと思ったが……)


 タイシンからこの一件を託されたおりのことが、思い出される――

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