◆◆◆◆ 7-25 一礼 ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「……どうも騒がしいな」
いずこからか聞こえた雷鳴に眉をひそめるヨスガ。
【 ミズキ 】
「元気があってよろしいのでは」
【 ヨスガ 】
「……まあ、そういうことにしておこう」
夜が更けても宴はなおも続いているが、ヨスガたちは宮城への帰り支度にかかっていた。
といっても、あらかたは野営地に残るので、戻るのはヨスガ、ミズキら数人だけである。
【 ミズキ 】
「ランブ卿、いささか頬が赤いようですが……馬に乗れるのですか?」
【 ランブ 】
「ええ……ご心配なく。多少、盃を舐めた程度ですので」
そう答えるランブは、確かに足元も確かなものだった。
【 ゼンキョク 】
「多少、ではなかったと思いますが……なにしろ、あの酒樽を空にしたのですから」
どこか呆れ気味のゼンキョク。
【 ランブ 】
「なに、半分はあの御仁ですので」
遠目に、ひっくり返って酔い潰れている砕嶺山の姿がある。
どうやら、飲み比べの決着はついたようだった。
【 ヨスガ 】
「では――あとのことはお任せする、霙将軍」
【 バイシ 】
「ああ、やれるだけのことはやるさ。ま、あとのことは、この子次第だけどね」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
必然、ホノカナはここに残ることとなる。
【 ヨスガ 】
「……なにか言いたそうだな」
【 ホノカナ 】
「い、言いたいことが、多すぎてっ……まとまりません!」
【 ヨスガ 】
「時が惜しい。手短に言え」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
【 ホノカナ 】
「わたしっ……わたしはっ……」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
【 ホノカナ 】
「……なにがあっても、ヨスガ姉さまのために、尽くします!」
【 ヨスガ 】
「それは、我がそなたの主君だからか? それとも、義姉だからか?」
【 ホノカナ 】
「両方です! そしてわたしは、わたしにできることを、しますっ……人侠烈聖として!」
【 ヨスガ 】
「……そうか」
ホノカナの言葉に、ヨスガはわずかに目を細め、
【 ヨスガ 】
「持っておけ」
と、佩刀を差し出した。
【 ホノカナ 】
「えっ!? でも、これって、国宝級の宝剣なんじゃ……!?」
【 ヨスガ 】
「本物ならな。それは本来、形代だ。だからといって、ただの飾りでもないが」
*形代……ここではレプリカの意。
【 ホノカナ 】
「は、はぁ……では、お預かりします!」
【 ヨスガ 】
「うむ。…………」
【 ホノカナ 】
「……? あの、なにか……?」
【 ヨスガ 】
「……本当によいのだな?」
【 ホノカナ 】
「い、今さらそんなっ……! とっくに、覚悟は決めていますっ!」
【 ヨスガ 】
「……それならよい」
【 ホノカナ 】
「女官長さま――いえ、紅雪華殿、姉さまのこと、よろしくお願いします」
【 ミズキ 】
「ええ――心得ました、副頭目」
うやうやしく一礼するミズキ。
【 一同 】
「――――っ」
そばに控えていたランブやゼンキョクら一党も、それに倣い、ホノカナに一礼する。
【 ホノカナ 】
「…………っ」
そんな彼らの態度に、ホノカナは、どこか空恐ろしいような心持ちを覚えたのだった……
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