◆◆◆◆ 7-18 信念 ◆◆◆◆
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――これより、少し前のこと。
【 ランブ 】
「……この左手を、元に戻す、ということか?」
自室に現れた方士・屍冥幽姫によって僵尸化された己の左手を眺めながら、ランブが問う。
【 屍冥幽姫 】
「戻すというと、いささか語弊がありますが……むしろ、移植するといった方が正しいかもです……シシシ……」
【 ランブ 】
「その場合、この左手は、私の思い通りに動くのか……?」
皿の上でビクンビクンと元気に跳ねている左手の様子に、ランブは眉をひそめる。
たとえ繋がったとしても、己の意のままにならないのでは、ただの飾りにすぎないであろう。
【 屍冥幽姫 】
「う~ん、正直、生身の人間と僵尸化した肉体の一部をくっつけたことはないので、やってみないとわかりませんが……」
【 屍冥幽姫 】
「でも、気合と根性があれば、なんとかなると思います……シシシ! とはいえ、保証はしかねるというのが、実際のところでして――」
【 ランブ 】
「――よかろう。お任せしよう」
迷うことなく、ランブは決断した。
【 屍冥幽姫 】
「……えっ? い、いいんですか? まだ誰にも試したことがないので、どうなるか、わかりませんが……」
【 屍冥幽姫 】
「うまく動かないくらいならまだしも、最悪……シシ……身体に害があるかも……」
【 ランブ 】
「どんなことにも、代償は必要なものだ」
と、己の左腕を見て。
【 ランブ 】
「これから先、あの御方を守り抜くには……もっと力が必要だ」
昨夜、相対した強敵〈戮仙劔君〉のことが思い出される。
カズサの助太刀もあって、かろうじて撃退できたが、次も幸運が続くとは限らない。
【 ランブ 】
(もっと、もっと強くならねば……!)
そのためには、打てる手はすべて打っておかねばならない。
【 ランブ 】
「そう……恐れてばかりはおれぬ。どうかお願いする、屍冥幽姫殿」
と、姿勢を正し、深々と一礼する。
【 屍冥幽姫 】
「ああ――」
屍冥幽姫は手を擦り合わせながら、感嘆の声をあげる。
【 屍冥幽姫 】
「貴方はやはり、見事な御方……! 必ずや、成功させてみせますともっ……シシシ!」
【 ランブ 】
「そうか……かたじけない」
【 屍冥幽姫 】
「あっ、それから、私のことはウヅキとお呼びくださいっ……」
【 ランブ 】
「お……おお、わかった、ウヅキ殿……よろしく頼む」
【 屍冥幽姫 】
「――かくのごとく、ランブさんには快諾していただけましたので、全力を尽くさせていただきました……ぶっつけ本番でしたが……シシシ……!」
【 ホノカナ 】
「だ、大丈夫なんですか!? そんな出たとこ任せな感じで……!?」
【 屍冥幽姫 】
「あの左手には、いろいろな呪物を注入したり、なんやかんや細工しているので、生身の頃よりずっと頑丈で、すごいことになっているのです……シシシィ……」
【 ゼンキョク 】
「ほほう……それはそれは、実に興味深いですねぇ……」
【 ホノカナ 】
「目をキラキラさせないでください……!」
【 ヨスガ 】
「…………っ」
ランブの奮闘を、じっと見つめるヨスガ。
【 バイシ 】
「いい家臣をお持ちだね、お頭」
【 ヨスガ 】
「……我には、過ぎた臣というものであろう」
【 バイシ 】
「胸を張りな。あんたの臣が、誇れる主であるようにね」
【 ヨスガ 】
「心得ているとも……!」
【 砕嶺山 】
『……グゥ……オオォ……』
【 ランブ 】
「……ハァッ……ハァッ……!」
熾烈な殴り合いを経てもなお、両者は膝をつくことなく、二本の足で地に立っていた。
とはいえさすがに、
【 ランブ 】
「……くっ……ふぅっ、ふうぅっ……」
体格に劣るランブの方が、より痛手が深いのは是非もない。
それでもなお退かずにいるのは、武人の誇りであり、何よりも、
【 ランブ 】
「あの御方を否定する者に、屈するわけにはいかぬ……断じて!」
そんな、意地そのものであろう。
【 砕嶺山 】
『グウウ……!』
【 ランブ 】
「貴公が、どんな信念を抱いているのか、私は知らぬ……しかし!」
腰をグッと屈めて、左の拳を構える。
【 ランブ 】
「我が信念、受け止められるものなら、受け止めてみよッ……!」
【 ランブ 】
(力を貸してくれ、我が、左ッ……!)
そのまま、旋回するようにして踏み込み、渾身の鉄拳を打ち込む――
【 ランブ 】
「――おおおおッ!」
【 砕嶺山 】
『グッ……ゴォオオオオッ!』
砕嶺山の放った右の拳が、ランブの拳を迎え撃つ。
――ドゴオオォッ!!
凄まじい衝突音が、鳴り響いた――




