◆◆◆◆ 2-12 神祖の影 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「そ、それにしても、まさか陛下が、微行なさっていただなんて……まるで、神祖さまのようです!」
乱れた髪の毛を直しながら、ホノカナが言う。
【 ヨスガ 】
「ほう、よく知っておるな」
【 ホノカナ 】
「はいっ、それはもう! 両親からよく教わりました!」
帝国の祖である〈神祖武烈替天皇帝〉もまた、しばしば変装して城を出て、下々の暮らしを探った……という伝説が残っている。
【 ヨスガ 】
「まあ、我の場合は、世情を探るためといえば聞こえはいいが……ただの憂さ晴らしにすぎぬのかもしれぬ」
【 ホノカナ 】
「えっ? でも、ええと……〈宝玲山〉に同志を集めてるって……」
【 ヨスガ 】
「一応は、それも目的ではあるがな。あの者たちのうち、どれだけの人数が言われたとおりにすると思う?」
【 ホノカナ 】
「ええっと……半分くらいは?」
【 ヨスガ 】
「せいぜい一割だ」
あっさりと告げる。
【 ホノカナ 】
「……っ、じゃあ、残りの九割の人たちは……」
【 ヨスガ 】
「少々縄張りを変えて、同じことを繰り返すだけだ。なにせ、帝都は広いゆえな」
【 ホノカナ 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「根本を解決せぬかぎり、世は改まらぬ。それでも、我は……なにもせずにはいられぬのだ」
【 ホノカナ 】
「――――素晴らしいと思いますっ!」
【 ヨスガ 】
「…………っ」
【 ホノカナ 】
「神様じゃないんだから、ぜんぶは無理です! それでも、できるかぎりのことをやろうとすれば、きっと――なんというかこう、その……いい感じになると思います!」
【 ヨスガ 】
「……やはりお前は、不調法者だな!」
【 ホノカナ 】
「め、面目ありません……!」
謝りつつも。
ホノカナは、ヨスガが少し笑みをうかべているのを、初めて見た気がしていた。
【 ヨスガ 】
「――さて、女官〈鱗・ホノカナ〉よ」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
改まった口調で名を呼ばれ、思わずかしこまる。
【 ヨスガ 】
「そなたは、大勢の前で我を痛罵し、恥辱を与えた。その罪は、今宵の手柄に免じて許そう」
【 ホノカナ 】
「あ、ありがとうございます……!」
【 ヨスガ 】
「……しかし、いきなり無罪放免では、それと知らぬ者たちは疑問に思うであろう」
「よって、しばし暴室に入っておれ。手ごろなところで、ミズキあたりの嘆願でようやく解放された……ということにしてやる」
【 ホノカナ 】
「な、なにからなにまで……そのあとは、もとのお仕事に戻れるんですね?」
【 ヨスガ 】
「それは無理だな」
ヨスガは、あっさりと答えた。
【 ホノカナ 】
「ええーっ!? ど、どういうことでしょう……」
【 ヨスガ 】
「考えてもみよ。皇帝の秘密を知ったそなたを、野放しにできると思うか?」
【 ホノカナ 】
「そ、それは――ええと、では――?」
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