◆◆◆◆ 2-11 皇帝と宮女 ◆◆◆◆
どこかで鶏の声がする。
【 ヨスガ 】
「まだ暗いというのに、気が早いものだな」
夜明け前。
ヨスガの姿は、帝の寝室の露台にあった。
【 ホノカナ 】
「…………」
そのかたわらに控えているのは、ホノカナひとりである。
日中から、なんとさまざまな出来事が立て続けに起きたことだろう。
疲労困憊のはずであったが、なぜか、まるで眠くはなかった。
【 ヨスガ 】
「それで――」
と、ヨスガはホノカナに向き直る。
【 ヨスガ 】
「先ほどの一件、どう思った? 率直に申すがよい」
【 ホノカナ 】
「え、ええっと――その――」
ホノカナは恐縮しつつも、
【 ホノカナ 】
「なんていうか、その……陛下は、とても楽しそうでした!」
【 ヨスガ 】
「……そうきたか」
虚を突かれたように、ヨスガは唇を結んだ。
【 ホノカナ 】
「し、失礼いたしましたっ!」
【 ヨスガ 】
「いや……そうだな。確かに、我は楽しんでおったのかもしれん」
その横顔は、どこか寂しげで。
【 ヨスガ 】
「……先ほども言ったが、皇帝陛下などといっても、我はしょせん傀儡にすぎん。実権などまるでないのだ」
【 ホノカナ 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「それでも、利発な、聡明な天子……などと評判が立っては警戒されて厄介ゆえ、歌舞音曲に溺れる、無能な小娘を演じておる」
【 ホノカナ 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「まぁ、歌や楽器をこよなく好いておるのは確かだがな!」
【 ホノカナ 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「しかし、それだけでは芸がないと思って、幾人かの宮女を城の外に出し、違う任務を与えておる。〈紅頬女帝〉とやらも、我がみずから流した噂話よ」
【 ホノカナ 】
「じ、自作自演……!」
【 ヨスガ 】
「そういうことだ。加えて、たまには実際にことを起こさねばと思い、宮女虐待の一幕を演じるつもりであったが……」
【 ホノカナ 】
「えっと……もしかして、わたしのせいで台無し……に?」
【 ヨスガ 】
「よくわかっておるではないか~っ!」
【 ホノカナ 】
「ひうっ!?」
いきなり髪の毛をわしゃわしゃとされて、ホノカナは妙な声を漏らす。
【 ヨスガ 】
「……だがまぁ、結果的にはよかった。そなたの悪口雑言に怒り、手打ちにしようとした……という噂が広がるであろうからな」
【 ホノカナ 】
「な、なるほど……災い転じて福をなす、ですねっ!」
【 ヨスガ 】
「調子に乗るな~~っ!」
【 ホノカナ 】
「ひうう~~っ!?」
ますます髪をくしゃくしゃにされて、ホノカナは悶絶した。
怒りながらもどこか楽しそうなヨスガの姿に、新鮮な感覚をおぼえずにはいられない。
【 ホノカナ 】
(こんな御方だったなんて――)
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