◆◆◆◆ 7-4 屍冥幽姫 ◆◆◆◆
【 ランブ 】
「――何者だ」
早くも冷静さを取り戻し、短剣を抜いて身構えるランブ。
室内においては、自慢の大斧を振るうのは容易ではないからである。
【 ???? 】
「おおっと……怒らないで……シシシ……親愛なる仲間ですのに……シシッ……」
部屋の隅の暗がりからユラリと姿を現したのは、目を布で隠した、白装束の方士風の女である。
【 ランブ 】
「貴公は――そうか、宝玲山の新入りか……!」
【 ???? 】
「シ、シ、シ……お初にお目にかかります……人呼んで、〈屍冥幽姫〉――」
薄笑いとともに一礼したその女は、昨夜の戦いにおいて、宝玲山からの援軍に加わっていた一人であった。
【 ランブ 】
「〈冥軍〉だったか……死者の軍勢を操る者がいたが、それが貴公だな?」
【 屍冥幽姫 】
「いかにも……シシシ……」
死体に仮初の命を与え、〈僵尸〉と呼ばれる動く屍として、自在に操る……
そんな術者がいることは聞いたことがあったが、まさか味方側に加わっているとは予想外だった。
【 ランブ 】
「……それも、貴公の仕業か? ずいぶん趣味が悪いな」
卓の上でなおもピクピクと動いている己の左手を見て、顔をしかめるランブ。
【 屍冥幽姫 】
「シシ……あいさつ代わりにと、思って……シシッ、なかなか、面白い、でしょう……?」
口の端を吊り上げて笑う屍冥幽姫。
【 ランブ 】
「面白いものか――」
眉をひそめ、ランブは吐き捨てるように返す。
【 屍冥幽姫 】
「えっ……? 面白く、ない……?」
【 ランブ 】
「当たり前だっ……! 父母から授かった手足を玩具のように弄ばれて、喜ぶ者などいるはずもあるまいっ!」
【 屍冥幽姫 】
「……そ、そう……ごめんなさい。その……私は……面白いと、思って……」
見るからにシュンと肩を落としている屍冥幽姫。
その様子に、今度はランブが困惑する。
【 ランブ 】
「……待て、本当にこれが面白いと思ったのか? 私が喜ぶと思って……?」
【 屍冥幽姫 】
「……え、えぇ……びっくりしてくれるかなと、思って……」
【 ランブ 】
「……確かに驚きはしたが、喜びはないな」
【 屍冥幽姫 】
「あ、あぁ……ごめんなさい……私、いつもこうで……」
先ほどまでの妖しげな雰囲気はどこへやら、すっかりオロオロとまごついている。
【 ランブ 】
「……もういい、気にするな。悪気がないのはわかった」
方士の中には、初対面においてハッタリをきかせ、相手を威圧したり惑乱させて、優位に立とうとする輩が少なくない。
この場合もその類かと疑ったランブだったが……どうやらそうではなく、文字通りのあいさつ代わりにすぎなかったようだ。
【 ランブ 】
(それはそれで、余計にやっかいではあるが……)
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