◆◆◆◆ 6-108 燎氏の変(95) ◆◆◆◆
【 兵の声 】
「怪我人はこっちだっ……!」
【 兵の声 】
「降伏した者は殺すな――陛下の命である!」
鉄虎門の周辺は、いまだ軍馬が往来し、怒号が飛び交い、騒然とした雰囲気が続いている。
【 白銀夜叉 】
「よう――元気そうじゃないか、お頭!」
【 ヨスガ 】
「……どこをどう見たら、そう見えるのだ?」
白銀夜叉と称する女武者が、ヨスガの前で下馬する。
【 ミズキ 】
「……ご無沙汰しております、阿姨。先ほどは……」
【 白銀夜叉 】
「ミズキか。ふん、ちっとは分別がついたかと思ったが、まだまだ甘ちゃんだねえ!」
【 ミズキ 】
「は……汗顔の至りです」
*汗顔……顔に汗をかくほど深く恥じる意。
【 ヨスガ 】
「しかし、城外には禁軍(近衛兵)がいたはずだが……強引に突破してきたのか?」
【 白銀夜叉 】
「まさかね。親愛なる八白閣下にお願いして、一筆書いてもらったのさ」
【 ミズキ 】
「それはまた……」
【 白銀夜叉 】
「さて、ひとまず片付いたようだが……まだ、頭を押さえちゃあいないんだろ?」
【 ヨスガ 】
「うむ、すぐにでも兵を――」
と、ヨスガが口にした矢先、
【 ランブ 】
「――陛下、城外に待機していた禁軍が動き出した由……!」
【 白銀夜叉 】
「ほう、さすがに機を見るに敏だねえ。どうする? こっちも手勢を動かすかい」
【 ヨスガ 】
「……やめておこう。あの老人にも、少しは花を持たさねばなるまいよ。それに――」
と、ヨスガは白銀夜叉が率いてきた援軍に目を向ける。
【 カズサ 】
「こらぁ~っ! 勝手に酒盛りを始めないでっ! 略奪? ダメに決まってるでしょう!? 放火ならいいかって、いいはずがないわよねぇ!? そこっ、無断で遺体を僵尸にしようとしないでちょうだいっ!」
自由奔放に振る舞う一団を相手に、カズサが手を焼いていた。
【 ヨスガ 】
「……あの連中を城下に放つのは、やめておいた方がよかろう」
【 ミズキ 】
「……そうですね」
【 ヨスガ 】
「ひとまず、謀叛人の捕縛は禁軍に任せよう。都内の火災による被害状況を探らせるのだ」
【 ランブ 】
「はっ、ただちに――」
【 ヨスガ 】
「だが、卿は休め! 今にも倒れそうではないか……!」
【 ランブ 】
「……はっ、この手配を済ませましたら――」
一礼して、駆け去っていくランブ。
【 ヨスガ 】
「……あれは、休む気などまるでないな。ミズキ、無理矢理にでも寝かしつけてこい!」
【 ミズキ 】
「心得ました。それでは……」
ヨスガたちに目礼して、ミズキはランブの後を追っていく。
【 白銀夜叉 】
「やれやれ。まだまだ頼りないねえ」
【 ヨスガ 】
「……よくやってくれていますよ、大姐は」
二人きりになったところで、ヨスガは口調を改める。
【 白銀夜叉 】
「ふぅん? そうかね」
【 白銀夜叉 】
「あんたも、ずいぶんと皇帝陛下が板についてきたみたいじゃないか」
【 ヨスガ 】
「さあ……なんとか、それらしくやってみせているだけです。まだまだ、ヒヨコも同然ですよ」
【 白銀夜叉 】
「そうかね? ま、しかし、間に合ってよかったよ。あんたを救えなかったら、冥府でレイセイにどやされちまうところだった」
【 ヨスガ 】
「当面、あちらに行くつもりもないでしょう?」
【 白銀夜叉 】
「まあね……ふわぁ、さすがに、この歳で徹夜はこたえるねえ」
【 ヨスガ 】
「……ありがとうございました、姥姥」
【 白銀夜叉 】
「……その呼び方、なんだかくすぐったいねえ! せめて老板娘とかにしておくれ」
【 ヨスガ 】
「似たようなものでしょうに……」
苦笑するヨスガ。
〈白銀夜叉〉こと〈霙・バイシ〉は、先帝の妃〈雪・レイセイ〉の母にあたる。
すなわち、ヨスガの外祖母に他ならない。
このひとときばかりは、皇帝ヨスガも孫の顔を見せていたのだった。
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