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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
203/421

◆◆◆◆ 6-108 燎氏の変(95) ◆◆◆◆

【 兵の声 】

「怪我人はこっちだっ……!」


【 兵の声 】

「降伏した者は殺すな――陛下の命である!」


 鉄虎門てっこもんの周辺は、いまだ軍馬が往来し、怒号が飛び交い、騒然とした雰囲気が続いている。


【 白銀夜叉 】

「よう――元気そうじゃないか、おかしら!」


【 ヨスガ 】

「……どこをどう見たら、そう見えるのだ?」


 白銀夜叉と称する女武者が、ヨスガの前で下馬する。


【 ミズキ 】

「……ご無沙汰しております、阿姨おばうえ。先ほどは……」


【 白銀夜叉 】

「ミズキか。ふん、ちっとは分別がついたかと思ったが、まだまだ甘ちゃんだねえ!」


【 ミズキ 】

「は……汗顔かんがんの至りです」

 *汗顔……顔に汗をかくほど深く恥じる意。


【 ヨスガ 】

「しかし、城外には禁軍(近衛兵)がいたはずだが……強引に突破してきたのか?」


【 白銀夜叉 】

「まさかね。親愛なる八白ハチハク閣下にお願いして、一筆書いてもらったのさ」


【 ミズキ 】

「それはまた……」


【 白銀夜叉 】

「さて、ひとまず片付いたようだが……まだ、頭を押さえちゃあいないんだろ?」


【 ヨスガ 】

「うむ、すぐにでも兵を――」


 と、ヨスガが口にした矢先、


【 ランブ 】

「――陛下、城外に待機していた禁軍が動き出したよし……!」


【 白銀夜叉 】

「ほう、さすがに機を見るに敏だねえ。どうする? こっちも手勢を動かすかい」


【 ヨスガ 】

「……やめておこう。あの老人にも、少しは花を持たさねばなるまいよ。それに――」


 と、ヨスガは白銀夜叉が率いてきた援軍に目を向ける。


【 カズサ 】

「こらぁ~っ! 勝手に酒盛りを始めないでっ! 略奪? ダメに決まってるでしょう!? 放火ならいいかって、いいはずがないわよねぇ!? そこっ、無断で遺体を僵尸きょうしにしようとしないでちょうだいっ!」


 自由奔放に振る舞う一団を相手に、カズサが手を焼いていた。


【 ヨスガ 】

「……あの連中を城下に放つのは、やめておいた方がよかろう」


【 ミズキ 】

「……そうですね」


【 ヨスガ 】

「ひとまず、謀叛人の捕縛は禁軍に任せよう。都内の火災による被害状況を探らせるのだ」


【 ランブ 】

「はっ、ただちに――」


【 ヨスガ 】

「だが、けいは休め! 今にも倒れそうではないか……!」


【 ランブ 】

「……はっ、この手配を済ませましたら――」


 一礼して、駆け去っていくランブ。


【 ヨスガ 】

「……あれは、休む気などまるでないな。ミズキ、無理矢理にでも寝かしつけてこい!」


【 ミズキ 】

「心得ました。それでは……」


 ヨスガたちに目礼して、ミズキはランブの後を追っていく。


【 白銀夜叉 】

「やれやれ。まだまだ頼りないねえ」


【 ヨスガ 】

「……よくやってくれていますよ、大姐あねうえは」


 二人きりになったところで、ヨスガは口調を改める。


【 白銀夜叉 】

「ふぅん? そうかね」


【 白銀夜叉 】

「あんたも、ずいぶんと皇帝陛下が板についてきたみたいじゃないか」


【 ヨスガ 】

「さあ……なんとか、それらしくやってみせているだけです。まだまだ、ヒヨコも同然ですよ」


【 白銀夜叉 】

「そうかね? ま、しかし、間に合ってよかったよ。あんたを救えなかったら、冥府あのよでレイセイにどやされちまうところだった」


【 ヨスガ 】

「当面、あちらに行くつもりもないでしょう?」


【 白銀夜叉 】

「まあね……ふわぁ、さすがに、この歳で徹夜はこたえるねえ」


【 ヨスガ 】

「……ありがとうございました、姥姥ばばさま


【 白銀夜叉 】

「……その呼び方、なんだかくすぐったいねえ! せめて老板娘おかみさんとかにしておくれ」


【 ヨスガ 】

「似たようなものでしょうに……」


 苦笑するヨスガ。

 〈白銀夜叉〉こと〈エイ・バイシ〉は、先帝の妃〈セツ・レイセイ〉の母にあたる。

 すなわち、ヨスガの外祖母に他ならない。

 このひとときばかりは、皇帝ヨスガも孫の顔を見せていたのだった。

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