表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
202/421

◆◆◆◆ 6-107 燎氏の変(94) ◆◆◆◆

【 刺客の頭目 】

「…………っ」


【 ランハ 】

「お目覚めのようね」


 刺客の頭目は、当惑した。

 あの女――カツミに失神させられ、これまで意識を失っていたわけだが……

 活を入れられて目覚めると、そこは豪奢な寝室であり、おのずと気持ちが安らぐような、ほんのりと甘い香りが漂っている。


【 ランハ 】

「自己紹介が――必要かしら?」


【 刺客の頭目 】

「……っ、コウ太后……!」


 それは、標的と定めた相手であった。

 思わず身体が反応しそうになる……が、一歩も動けない。


【 カツミ 】

「おっと、おとなしくしてなよ?」


【 刺客の頭目 】

「…………っ」


 カツミが背後から腕を掴んでいる。

 微力な方術を用いているようで、手足の動きを封じられていた。


【 ランハ 】

「ふふ、話が早くていいわね……さて……」


【 ランハ 】

「徒党を組んで宮城に潜入するとは、大胆不敵……誰の差し金かしら?」


【 刺客の頭目 】

「…………っ」


【 ランハ 】

「ふふ……それは、そうよね。雇われ先を易々と口にするような輩は、信用ならないもの」


【 刺客の頭目 】

「……っ、尋問など無駄だ。殺すがいいっ……!」


【 ランハ 】

「尋問……? そんなつもりはないわ。これは、そうね……取り引きよ」


【 刺客の頭目 】

「…………っ?」


【 ランハ 】

「こちらに、鞍替えする気はないかしら?」


【 刺客の頭目 】

「――――っ」


【 ランハ 】

「あなたたちの腕は、たいしたものだわ。今回は、いささか相手が悪かったようだけれど……」


【 ランハ 】

「……その腕、私の下で振るってみたいとは思わなくて? 部下たちも含めて、ね」


【 刺客の頭目 】

「…………」


 しばし押し黙っていたが、やがて口を開く。


【 刺客の頭目 】

「……よかろう。その申し出、受けよう」


【 ランハ 】

「あら……案外あっさりしているのね。いいのかしら、雇用主を裏切っても?」


【 刺客の頭目 】

「……それは、相手が誠意ある雇い主だった場合の話だ。今回、我らは謀られた。あのような戦力が相手だと知っていれば……引き受けなかったであろう」


【 ランハ 】

「ふふ、なるほどね……肝に銘じておくとしましょうか」


【 刺客の頭目 】

「――我ら〈聖真理会せいしんりかい〉、国母さまになんなりと従いましょう」


 と、深々と頭を下げる。


【 ランハ 】

「あら、聞いたことがあるわね……キョ丞相に仕えていた一団だったかしら?」


【 刺客の頭目 】

「は――丞相の下で働いておりましたが、それ以後は、定まった主もおらず……」


 かつて朝廷を牛耳ぎゅうじり、〈跳梁ちょうりょう丞相〉などと呼ばれた宰相〈キョ・ミンガイ〉。

 彼らはその下で動いていた刺客集団であるらしい。

 十五年前の〈三氏さんしの乱〉のさなか、丞相は謎の死を遂げた。

 それ以降は主君も持たず、その日暮らしを続けていたところに、今回の件にいたった……というところであろうか。


【 ランハ 】

「なるほど……ね。カツミ、離してあげてちょうだい」


【 カツミ 】

「おい、いいのか? こいつ、素手でもあんたの首をひねるくらいは朝飯前だぜ」


【 ランハ 】

「ふふ、そんなことをしても、一文の得にもならないわ。そんな無駄なことはしない……そうではなくて?}


【 刺客の頭目 】

「御意――」


【 ランハ 】

「結構……後のことは、追って伝えるわ。お下がりなさい」


【 刺客の頭目 】

「ははっ……!」




【 カツミ 】

「……本当にいいのか? あいつ、まだ、あんたの首を諦めてないみたいだったが」


【 ランハ 】

「あら……口出しはしない約束だったのではなくて?」


【 カツミ 】

「いいんだよ、これは口出しじゃなくて、ただの忠告だからさ」


【 ランハ 】

「……猟犬の牙は、鋭すぎると飼い主をも傷つける恐れもあるけれど、鈍くては獲物を狩ることができない……あれくらいの気概がなくては、物の役には立たないわ」


【 カツミ 】

「ふうん……ま、いいけど。おい、アズミ、寝るな~」


【 アズミ 】

「むにゃむにゃ……」


【 ランハ 】

「ふふ、寝かせてあげなさい。当面は、やっかいごとは起きないでしょうから」


【 ランハ 】

「そう――当面は、ね。ふふ……ふふふ……」


 皇太后ランハの含み笑いが、室内に響いた……

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ