◆◆◆◆ 6-106 燎氏の変(93) ◆◆◆◆
【 ランハ 】
「……外の乱痴気騒ぎは、落ち着いたようね」
内廷の東の宮にある、皇太后〈煌・ランハ〉の寝室。
【 カツミ 】
「そうみたいだな。なんとかしたみたいだぜ、あいつら」
寝台からのランハの問いに、〈燃・カツミ〉が応じる。
【 ランハ 】
「そう……事と次第によっては、あなたたちに助太刀をお願いしようかと思ったけれど……必要、なかったようね」
【 カツミ 】
「あたし、ああいうのは好きじゃないんだよなぁ~。それにしても、アレはなんなんだよ? 妖魔……ってわけでもなかったみたいだけど」
【 ランハ 】
「さて……どうかしら。私にも、わからないことはあるわ。あなたは知っているかしら、アズミ?」
【 アズミ 】
「ん……むにゃむにゃ……」
〈煉・アズミ〉は、すっかり御眠な様子であった。
【 ランハ 】
「ふふ……ごめんなさいね、夜更かしをさせてしまって。さて……今のうちに、いろいろと片付けておかなくては……お願いできるかしら……カツミ?」
【 カツミ 】
「ああ、そりゃあいいが……大丈夫なのか?」
【 ランハ 】
「ええ……今は、だいぶ落ち着いているから」
【 カツミ 】
「わかったよ。それじゃ、どっちからにする?」
【 ランハ 】
「そうね……話が早そうなのは、老師のほうかしら……?」
【 カツミ 】
「ああ、わかった。ちょっと待ってな――」
と、答えてから、ほんの数瞬ののち。
【 カツミ 】
「――ほい、お待たせ」
一人の男を軽々と担いで、戻ってきた。
【 カツミ 】
「よっと」
気を失っているところに、活を入れる。
【 シジョウ 】
「……ゴホッ! はぁっ、はぁあっ……」
初老の男が、咳き込みながらも意識を取り戻した。
〈十二佳仙〉の筆頭格、〈黄龍・シジョウ〉。
皇太后の庇護を受け、朝廷にあって勢威を誇ってきた彼だが……今の姿には、とうていそんな面影はない。
【 ランハ 】
「久しいわね――黄龍老師。しばらく見ない間に、ずいぶん、変わり果ててしまったこと……」
【 シジョウ 】
「……っ、国母、さまっ……」
弱々しくもひざまずき、平伏する。
息苦しさもあって覆面を脱いだその姿には、生気のかけらもなく、哀れな老方士でしかない。
【 ランハ 】
「ことの仔細は……聞いているわ」
*仔細……細かい話、詳しい事情の意。
【 シジョウ 】
「…………っ」
【 ランハ 】
「ずいぶんと……派手にやったようね」
【 シジョウ 】
「も、申し訳ございませんっ……!」
寝台は薄絹の帳で覆われており、ランハの姿ははっきりとは見えない。
あまり覇気が感じられない気がするのは、錯覚だろうか?
病というのは、あながち虚言ではなかったのかもしれない。
【 ランハ 】
「不測の事態も、生じたようだけれど……さて、この始末……どうつけるつもりかしら?」
【 シジョウ 】
「そ、それはっ――」
【 ランハ 】
「……ふふ、ふふふ……冗談よ。あなたには、まだやってもらうことがあるもの」
【 シジョウ 】
「…………っ」
【 ランハ 】
「今後のことだけれど……身の振り方は考えているのかしら?」
【 シジョウ 】
「……っ、なにごとも、国母さまの思し召しのままにっ……」
床に額をすりつけ、訴える。
【 ランハ 】
「まあ……そうとしか言えないでしょうね。いいわ、お下がりなさい……あの子も、こちらには手を出せないでしょうし」
【 シジョウ 】
「は、ははっ……」
シジョウは深々と礼をすると、よろめきながらも部屋をあとにした。
【 カツミ 】
「…………」
【 ランハ 】
「なにか……言いたそうね、カツミ?」
【 カツミ 】
「いや、べつに? あんたのやることに口出しはしないよ。それが“約束”だからな」
【 ランハ 】
「ふふ……そうだったわね。それじゃ……もう一人のほうも連れてきてくれるかしら?」
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