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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
201/421

◆◆◆◆ 6-106 燎氏の変(93) ◆◆◆◆

【 ランハ 】

「……外の乱痴気らんちき騒ぎは、落ち着いたようね」


 内廷ないていの東の宮にある、皇太后〈コウ・ランハ〉の寝室。


【 カツミ 】

「そうみたいだな。なんとかしたみたいだぜ、あいつら」


 寝台からのランハの問いに、〈ネン・カツミ〉が応じる。


【 ランハ 】

「そう……事と次第によっては、あなたたちに助太刀をお願いしようかと思ったけれど……必要、なかったようね」


【 カツミ 】

「あたし、ああいうのは好きじゃないんだよなぁ~。それにしても、アレはなんなんだよ? 妖魔……ってわけでもなかったみたいだけど」


【 ランハ 】

「さて……どうかしら。私にも、わからないことはあるわ。あなたは知っているかしら、アズミ?」


【 アズミ 】

「ん……むにゃむにゃ……」


 〈レン・アズミ〉は、すっかり御眠おねむな様子であった。


【 ランハ 】

「ふふ……ごめんなさいね、夜更かしをさせてしまって。さて……今のうちに、いろいろと片付けておかなくては……お願いできるかしら……カツミ?」


【 カツミ 】

「ああ、そりゃあいいが……大丈夫なのか?」


【 ランハ 】

「ええ……今は、だいぶ落ち着いているから」


【 カツミ 】

「わかったよ。それじゃ、どっちからにする?」


【 ランハ 】

「そうね……話が早そうなのは、老師せんせいのほうかしら……?」


【 カツミ 】

「ああ、わかった。ちょっと待ってな――」


 と、答えてから、ほんの数瞬ののち。


【 カツミ 】

「――ほい、お待たせ」


 一人の男を軽々と担いで、戻ってきた。


【 カツミ 】

「よっと」


 気を失っているところに、活を入れる。


【 シジョウ 】

「……ゴホッ! はぁっ、はぁあっ……」


 初老の男が、咳き込みながらも意識を取り戻した。

 〈十二佳仙じゅうにかせん〉の筆頭格、〈黄龍コウリュウ・シジョウ〉。

 皇太后の庇護を受け、朝廷にあって勢威を誇ってきた彼だが……今の姿には、とうていそんな面影はない。


【 ランハ 】

「久しいわね――黄龍コウリュウ老師せんせい。しばらく見ない間に、ずいぶん、変わり果ててしまったこと……」


【 シジョウ 】

「……っ、国母、さまっ……」


 弱々しくもひざまずき、平伏する。

 息苦しさもあって覆面を脱いだその姿には、生気のかけらもなく、哀れな老方士でしかない。


【 ランハ 】

「ことの仔細しさいは……聞いているわ」

 *仔細……細かい話、詳しい事情の意。


【 シジョウ 】

「…………っ」


【 ランハ 】

「ずいぶんと……派手にやったようね」


【 シジョウ 】

「も、申し訳ございませんっ……!」


 寝台は薄絹のカーテンで覆われており、ランハの姿ははっきりとは見えない。

 あまり覇気が感じられない気がするのは、錯覚だろうか?

 病というのは、あながち虚言ではなかったのかもしれない。


【 ランハ 】

「不測の事態も、生じたようだけれど……さて、この始末……どうつけるつもりかしら?」


【 シジョウ 】

「そ、それはっ――」


【 ランハ 】

「……ふふ、ふふふ……冗談よ。あなたには、まだやってもらうことがあるもの」


【 シジョウ 】

「…………っ」


【 ランハ 】

「今後のことだけれど……身の振り方は考えているのかしら?」


【 シジョウ 】

「……っ、なにごとも、国母さまの思し召しのままにっ……」


 床に額をすりつけ、訴える。


【 ランハ 】

「まあ……そうとしか言えないでしょうね。いいわ、お下がりなさい……あの子も、こちらには手を出せないでしょうし」


【 シジョウ 】

「は、ははっ……」


 シジョウは深々と礼をすると、よろめきながらも部屋をあとにした。


【 カツミ 】

「…………」


【 ランハ 】

「なにか……言いたそうね、カツミ?」


【 カツミ 】

「いや、べつに? あんたのやることに口出しはしないよ。それが“約束”だからな」


【 ランハ 】

「ふふ……そうだったわね。それじゃ……もう一人のほうも連れてきてくれるかしら?」

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