◆◆◆◆ 2-10 天侠大聖 ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「ふん、ようやく仕事をしたか、ヘボ軍師」
【 セイレン 】
「はははは! むろんですとも、陛――いえ、千金小姐! これぞ天をも惑わす我が秘術! ……まぁ、実際には視界を惑わせているだけですが! ね!」
【 ホノカナ 】
「うわ、わわわ……」
遅れて修羅場にやってきたホノカナは、その異様な光景にあっけにとられていた。
【 ホノカナ 】
「こ、これって、いったい……」
【 ヨスガ 】
「見ればわかるであろう? 盗賊退治だ――さぁ、刀をよこせ!」
【 ホノカナ 】
「はっ、はいい……!」
ヨスガに言われて、慌てて宝刀を手渡すホノカナ。
【 ヨスガ 】
「聞け、不逞の輩よ! 我は皇帝陛下をお慕いする義士なり!」
いつの間にかミズキの手で縛り上げられた賊たちの前で、堂々と宣言するヨスガ。
【 ごろつき 】
「げっ……するともしや、あの名高い〈天侠大聖〉さまでは――」
【 ヨスガ 】
「その通り。我は世の乱れを憂い、天に替わってこれを正さんと志しておる。これは本来、皇帝陛下のなすべきことながら……」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
一瞬、チラリとホノカナを見て。
【 ヨスガ 】
「――されどいまだ陛下は幼弱にして、まつりごとは皇太后や仙術師どもの手中にある」
「よって我は、悪人どもを成敗するべく、夜な夜な帝都を彷徨しておるのだ」
【 ごろつき 】
「――――」
しかるに、とヨスガは続ける。
【 ヨスガ 】
「そなたたちの中には、救いようのない悪党もいれば、やむなく悪事に手を染めるにいたった者もいよう。ぜひなきことだ」
【 ごろつき 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「ここでそなたたちを殺めるのはたやすい。しかし、我は義士である。そなたたちの何割かでもが、善道に戻ることを期待したい。よって――」
ミズキが、懐からいくばくかの銀貨を取り出す。
【 ヨスガ 】
「この路銀で、〈宝玲山〉へ行くがよい。そこにいるのは山賊なれど、我が同志なれば、それより先の道はただの悪ではなく、善へ向かうための道となるのだ」
【 ごろつき 】
「…………っ」
【 ヨスガ 】
「夜明けとともにゆくがよい。そしてもし、またこの帝都でそなたたちを見かけたならば――」
【 ミズキ 】
「ふふ」
【 ごろつき 】
「ひっ――」
ミズキが髪をかき上げるのを見て、男たちは恐懼し、平伏した。
【 ホノカナ 】
(……っ、これって……)
そんな光景を、ホノカナは茫然となって見つめていた。
――しかし、ふと、その視線の先に。
【 ホノカナ 】
「――陛下っ!!」
【 ヨスガ 】
「!?」
いきなりホノカナに突き飛ばされ、ヨスガはたまらずつんのめる。
その間近を、一筋の矢が通り過ぎていった。
【 射手 】
「ちい――」
屋根の上に潜んでいた射手が、二の矢をつがえる前に。
【 射手 】
「――ぐあっ!?」
その身は、地面に転落していた。
【 ホノカナ 】
「ご、ご無事ですか、陛下っ!」
【 ヨスガ 】
「……これが無事に見えるか?」
【 ホノカナ 】
「も、申し訳ありませ~~んっ!」
顔から泥に突っ込んだヨスガを引っ張り起こしながら、ホノカナは絶叫した……
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