表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
199/421

◆◆◆◆ 6-104 燎氏の変(91) ◆◆◆◆

 ――長かった一夜が、明けようとしている。


【 若い男 】

「……はぁっ、はぁっ……ふうぅっ……」


 空が白みつつある中、帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉よりやや南方にある山の中に、一人の若者の姿がある。


【 若い男 】

「ぜぇっ、ぜぇっ……やれやれ……ここまでくれば、ひとまずは……」


 息を切らし、肩で息をしているこの若い男……

 先だって〈拾弐じゅうにの仙〉を名乗り、皇帝ヨスガを〈反転反魂はんてんはんごん〉の術で暗殺しようとした、あの男である。


【 若い男 】

「まったく、この〈黒羽こくう将軍〉ともあろう者が、この体たらく……」


 黒羽将軍と名乗り、ミズキたちの前から姿を消したのだったが、なぜか気息奄奄いきもたえだえのありさま。


【 黒羽将軍 】

「ふうぅっ……〈千里行せんりこう〉の術で脱出するつもりが、よもや、霊力れいりょくが切れてしまうとは、誤算の極み……」

 *霊力……本作においては神仙や妖魔が持つ霊的なエネルギーを指す。マジックポイントのごときもの。


 瞬間移動して逃げる途中で霊力が尽きたため、やむなく走って逃げる羽目になった……と、いうことであるらしい。


【 黒羽将軍 】

「ふぅ……さて、合流地点はこのあたりのはずだが……?」


 耳を澄ませると、水の流れる音がする。

 それを頼りに歩いていくと……


【 黒羽将軍 】

「…………っ」


 澄んだ水をたたえた、泉があった。

 そこに、ひとりの長髪の女が身を浸し、水浴びをしている。

 その美貌や、一糸まとわぬ裸もさることながら、目を引くのは……


【 黒羽将軍 】

(あの、傷は――)


 右腕は根元から切断され、生々しい跡が残っている。


【 長髪の女 】

「…………」


【 黒羽将軍 】

「……おっと、これは失敬――」


 女に気づかれ、黒羽将軍は視線を逸らした。


【 長髪の女 】

「この霊泉れいせんを知っているとは――そなた、常人つねびとではないな」

 *霊泉……霊験あらたかな泉の意。


 男に裸体を見られながらも、女はまるで動じた様子もない。


【 長髪の女 】

「さては、〈無明天師むみょうてんし〉の手の者か?」


【 黒羽将軍 】

「いかにも――しかし、手の者……というのは語弊がありますな。まあ、同盟者といったところです」


【 長髪の女 】

「ほう。では、あやつが言っていた〈北辰星ほくしんせい〉とやらか?」


【 黒羽将軍 】

「ええ――〈北辰星〉の玄武ゲンブ三将がひとり、黒羽将軍と申す者。お見知りおきを」


 と、恭しく一礼してみせる。


【 黒羽将軍 】

「かくいう貴方は、〈戮仙劔君りくせんけんくん〉殿とお見受けしますが……」


【 戮仙劔君 】

「いかにもそうだ」


 極龍殿の正門において、〈ナギ・ランブ〉と〈セン・カズサ〉と剣を交えた剣客・戮仙劔君、その人であった。

 戦いを終えた直後は、今にも全身が溶け崩れそうな状態だったが、現在はすっかり回復している。


【 黒羽将軍 】

「かなりの深手を負われたようでしたが……その泉のおかげで?」


【 戮仙劔君 】

「さよう、かつてはオレも生傷が絶えなかったゆえ、よく利用したものよ。これほどの傷を受けたのは、久方ぶりではあるな」


 そう語る女は、どこか嬉しそうですらある。


【 戮仙劔君 】

「そなたもだいぶ弱っているようだ。浴びてはどうだ?」


【 黒羽将軍 】

「はぁ、そうしたいところですが……さすがに、婦女子との混浴はいささかはばかられますな」


【 戮仙劔君 】

「オレはどうでもいいが……ちょうど上がるところであった。存分に浸かるがよかろう。だが、その前に……」


【 黒羽将軍 】

「……なにか?」


【 戮仙劔君 】

「ちと、服を着るのを手伝ってくれぬか。片腕では、いささか手面倒でな」


【 黒羽将軍 】

「ははあ……」


 黒羽将軍は当惑しつつも、彼女を手伝う羽目になったのだった……

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ