◆◆◆◆ 6-101 燎氏の変(87) ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「さよう、取り引きだ。しかるべき態度を見せるなら、一命は救ってもよい」
【 燎家の家宰 】
「しかるべき態度――とは……?」
【 ヨスガ 】
「まずは情報だ。そなたたちを手引きしたという、その〈無明天師〉とやらについて、詳しく聞かせてもらおう」
【 ヨスガ 】
「だがそれでも、無罪放免とはいかぬ。ゆえに――」
【 燎家の家宰 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「――正道を外れ、賊の一味となるがよい」
【 燎家の家宰 】
「…………っ!?」
【 セイレン 】
『ほう、それはつまり、宝玲山の一党に加われと?』
【 ヨスガ 】
「そうだ。あやつらと同様、我が手駒となってもらう。なかなか自由で悪くはないぞ。まあ、二度と日の下は歩けぬがな」
【 ヨスガ 】
「もとより、無理強いはせぬ。そのまま処断を待つのもよい。それはそれで、その者の選択ではある」
【 燎家の家宰 】
「――――っ」
【 ヨスガ 】
「だが、たとえ邪道に落ちたとしても、なお生きたいと望むならば……我はそれを見逃すであろう」
【 ヨスガ 】
「法は法、天子といえども――否、天子なればこそ、決して疎かにはできぬ。しかしながら、法で天下のすべてを縛り、管理できると思うほど、我は傲慢ではない」
【 ヨスガ 】
「同じことは、そなたらが雇った兵どもにも選ばせよう。もっとも、おおかたはモノになるまいがな」
【 ホノカナ 】
「ちょ、ちょっと待ってください! それで……いいんですかっ?」
黙って聞いていたホノカナが、口を挟む。
【 ヨスガ 】
「気に入らぬか?」
【 ホノカナ 】
「……っ、この人たちのせいで、大勢、亡くなりました。本当なら、死ななくても良かったはずの人たちがっ……」
城門で看取った同郷の若者のことが思い出された。
それ以外の守備兵の犠牲者も少なくない。
【 ホノカナ 】
「それにっ、みやこに火をつけたのも、この人たちなんですよねっ……?」
帝都の火災で命を落とした人々は、いったいどれだけの数になるのだろう?
幸い助かったとしても、家を焼け出され、生活を失う苦しみは、かつて戦禍に遭ったホノカナにとって身近なものであった。
【 ホノカナ 】
「それなのにっ……」
【 燎家の家宰 】
「…………」
【 ヨスガ 】
「……もとより、どんな罪も赦す、というつもりはない。ことを起こした首謀者たちには、責を負ってもらわねばならぬ。当然、そなたの主にもな」
【 燎家の家宰 】
「…………っ」
【 ヨスガ 】
「族滅にはせぬ――というだけのことだ。相応の罰は受けてもらう。だが、全てを奪うのは、我の目指す政とは異なる」
【 ヨスガ 】
「きゃつらは、決して正しき民ではない――ないが、彼らなりの生きる場所を用意するのも、為政者のつとめというものであろうよ」
【 ヨスガ 】
「彼らとて、我が民にはちがいないのだからな」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
己の理念を語るヨスガの姿に、ホノカナは圧倒される思いだった。
【 ホノカナ 】
(これが、この方のめざす、道……!)
【 燎家の家宰 】
「あぁ……」
家宰はしきりに嘆いている。
【 燎家の家宰 】
「もしも我が主が、もっとあなたさまを深く知ることができていたならば、このような、ことには――」
【 ヨスガ 】
「……その点は、いささか同情はする。我がことさら爪を隠してきたのは確かゆえな」
【 ヨスガ 】
「だが、こちらにも事情があるのだ。すまぬ」
【 燎家の家宰 】
「――――」
シュル……シュル……
【 セイレン 】
『……おやっ? 蔦が、緩んできたような……?』
家宰を拘束するように巻きついていた蔦が、やや緩んできていた。
【 ヨスガ 】
「ふむ……交渉は為った、と判断して良さそうだな」
【 ヨスガ 】
「よし……妹よ! 今こそ〈赫龍輝剣〉をもって、因果を断ってみせよ!」
【 ホノカナ 】
「……っ、はいっ……」
再び剣を振りかぶり――
【 ホノカナ 】
「――――ええいっ!」
渾身の力で、振り下ろした――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




