◆◆◆◆ 6-99 燎氏の変(85) ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「よっと……あっ、意外と軽い?」
セイレン絨毯を丸めて、担ぎ上げるホノカナ。
【 ヨスガ 】
「〈赫龍輝剣〉も忘れるでないぞ!」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ……」
見れば、かたわらにヨスガの御佩刀が置いてあった。
【 ホノカナ 】
「あれっ? でも、ここに来る前には、持っていなかったのに……どうして?」
【 ヨスガ 】
「ふむ……まあ、ありえぬことではない。なにしろ、神祖が佩いていたという神剣ゆえな」
*佩く……刀剣を腰に差す、下げるの意。
【 ホノカナ 】
「ええっ!? そ、そんな、ありがたいものだったんですかっ……というか、わたしが持ってていいんですか!?」
御大層な宝剣だとは思っていたものの、それほどの品だったとは知らなかったホノカナ、思わず地面に戻そうとしてしまう。
【 ヨスガ 】
「たわけ、そなた以外に誰が持つのだ!」
【 ホノカナ 】
「この場合、ヨスガ姉さまが持つのが自然では……!?」
【 ヨスガ 】
「……我は、剣をもって世を支配するつもりはない。天下を動かすのは法であり、機構であり、それを用いる人間である」
【 ヨスガ 】
「よって、我に剣は不要である!」
【 ホノカナ 】
「それって、ただおっくうなだけですよねぇ!?」
【 ヨスガ 】
「ええい、四の五の小うるさいのだ! さっさとゆくぞ!」
【 ホノカナ 】
「わわっ、ま、待ってくださいぃ~っ!」
ゆくぞ! と勢いよく言って歩き出したものの、さしあたり、どこか当てがあるわけでもない。
【 ホノカナ 】
「あの~、その糸っていうのは、どこにあるんですか? 絨毯さん……じゃなくて、セイレンさん」
【 セイレン 】
『そこ、間違えるはずないですよねえ!? ……ふぅむ、なにかしら手掛かりはあるはず……きっとあるんじゃないかな……あるといいなぁ』
【 ヨスガ 】
「あるいは、こやつを燃やしたら出てきたりするのではないか?」
【 ホノカナ 】
「あっ、なるほど、あぶり出しみたいな……?」
【 セイレン 】
『ひいっ!? ご、五感を研ぎ澄ましてください! 目だけでなく、匂いとか、音とかぁ~っ!』
【 ホノカナ 】
(音? ……そういえば……)
先ほど聞いた、泣き声のことが思い出された。
【 ホノカナ 】
「んんん~~っ……」
【 ヨスガ 】
「おい、立ったまま寝るでない!」
【 ホノカナ 】
「ち、違います、耳を澄ましてるんですぅ! さっき、泣き声が聞こえてっ……ん、んん~っ……」
【 ヨスガ 】
「…………」
【 セイレン 】
『…………』
【 ホノカナ 】
「……なるほど!」
【 ヨスガ 】
「なにか、聞こえたのか?」
【 ホノカナ 】
「いえ、さっぱり……」
【 ヨスガ 】
「そなたも燃やしてくれようかぁ!?」
【 ホノカナ 】
「ひゃあああっ!?」
【 ヨスガ 】
「む――」
ヨスガがぴくりと耳をそばだてる。
【 ヨスガ 】
「なにやら……声が聞こえるな。これは……泣き声、か?」
【 セイレン 】
『おお、さすが、音には敏感ですな陛下!』
【 ホノカナ 】
「ほら、わたしの言ったとおりでしょうっ?」
【 ヨスガ 】
「なぜそなたが偉そうに胸を張るのだ……まあいい、行ってみるとしよう――」
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