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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
19/421

◆◆◆◆ 2-9 路地裏にて ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「――セイレンめ、あの者がよほど気に入ったのか?」


【 ミズキ 】

「さぁ……よい退屈しのぎができると思っているのでしょう」


【 ヨスガ 】

「ふん、物好きなことだな」


【 ミズキ 】

「それは、ヨスガさまも同じでは?」


【 ヨスガ 】

「はぁ? 我があやつを気に入っているとでも?」


【 ミズキ 】

「こたびの微行びこうに彼女を同行させたのは、それゆえではないのですか?」

 *微行……貴人がひそかに外出することを指す。


【 ヨスガ 】

「べつに、そういうわけではない――あやつに、我が遊び呆けているだけではない、ということを教えてやろうと思ったまでのことよ」


【 ミズキ 】

「ははぁ……まぁ、そういうことにしておきましょう」


【 ヨスガ 】

「なんだその『素直じゃありませんね』と言いたげな顔は! 思い出したぞ、そなた、あやつが言いたい放題言っているあいだ、止めもせなんだな!」


【 ミズキ 】

「いちおう、一声かけはしましたが?」


【 ヨスガ 】

「口をふさぐくらいはたやすかったであろうっ? そなた、あえてあやつに我を煽らせおったな……!」


【 ミズキ 】

「まさか、皇帝陛下にそんな不敬な真似をするはずがございませんよ」


 宮廷内とはうってかわって、ヨスガ相手に遠慮のないミズキであった。


【 ミズキ 】

「さて……おしゃべりはこれくらいにいたしましょう」


【 ヨスガ 】

「む……」


 提灯をつけて路地裏に入ると、とたんに異臭が鼻を刺した。

 明かりを向けると、そこかしこに人の身体が折り重なっている。

 もとより、いずれも屍であった。


【 ヨスガ 】

「……流行り病か?」


【 ミズキ 】

「それもありましょうが、おそらくは……」


 ふたりが言葉を交わしていると、


【 ごろつき 】

「いい匂いがするじゃねェか――」


【 別のごろつき 】

「ああ、コイツはたまらねぇ、若い女の匂いだ……!」


 まるで闇から湧き出るかのように、薄汚れた輩が現れ、周囲を取り囲んだ。


【 ヨスガ 】

「ふん……鼠賊そぞくどもめ。我が色香に惹かれて、寄り集まってきたらしいな!」


 と啖呵を切るヨスガであったが、


【 ごろつき 】

「……なんだ、片割れはガキじゃあねェか」


【 別のごろつき 】

「ガキはいらねぇな……放っておこうぜ」


 あっさりと眼中から外されていた。


【 ヨスガ 】

「はぁーっ!? そなたたち、目は確かか! この気品! この美貌! どれをとっても一級品であろうがぁ!」


 しかし男たちは怒り心頭のヨスガに耳を貸さず、


【 ごろつき 】

「おい、殺すんじゃあねェぞ!」


【 別のごろつき 】

「ああっ、たっぷり楽しませてもらわねえとなぁ!」


 と、ミズキにむかって殺到する。


【 ミズキ 】

「やれやれ」


 ミズキは髪をかきあげて、


【 ミズキ 】

「もてる女はつらいものです。誰かとちがって」


【 ヨスガ 】

「なにをぉーっ!?」


 そんな軽口を叩く間にも、ミズキの肢体に薄汚れた手が群がり――


【 ごろつき 】

「――ぐええェッ!?」


【 別のごろつき 】

「――ひいいっ!?」


 悲鳴をあげたのは、しかし男どもの方であった。

 手や足を押さえて、苦悶の声をあげている。


【 ごろつき 】

「い、痛ええッ……な、なんだこの女……!?」


 たまらず後ずさる不埒ふらち者たち。

 ようやく彼らは、この女がただの通りすがりの美女ではないことに気づく――――


【 ミズキ 】

「目玉に刺してもいいのですが……」


 提灯を手に、空いた手で悠然と髪を撫でながら。


【 ミズキ 】

「それはいささか、寝覚めが悪いというもの」


 その凄艶せいえんな姿に、男どもは息を呑む。

 あたかも、この世ならざる魔性に遭ったかのごとく――


【 ごろつき 】

「ず、ずらかれ……!」


 誰からともなく、薄闇の中へ飛び込もうとする……が。


【 ごろつき 】

「――ぐえェッ? な、なんだ……!?」


【 別のごろつき 】

「お、お前、なんで俺にぶつかって……うげっ!?」


 まるで方向感覚をなくしたかのように、お互いにぶつかりあって、にっちもさっちもいかない醜態をさらしている。

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