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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
182/421

◆◆◆◆ 6-87 燎氏の変(73) ◆◆◆◆

【 カズサ 】

「……っ、なんなの、これはっ……!?」


 セン・カズサは、城壁の下に広がる異様な光景に目を丸くしていた。

 千人は下らない叛乱兵たちが、突如湧いた黒い霧によって、ことごとく呑まれてしまったのである。


【 カズサ 】

(よくわからないけど……とても、とても嫌な感じだわ!)


【 守備隊長 】

「せ、セン公、これはどういう……!?」


【 カズサ 】

「わからないわ……でも、警戒を続けて頂戴っ!」


【 守備隊長 】

「は、ははっ……!」




【 ゼンキョク 】

「む――」


 負傷兵の治療に当たっていたゼンキョクが、ふと門の方へ目を向ける。


【 ホノカナ 】

「……っ? あの、アン老師せんせい、どうかしました?」


 ゼンキョクに従い、手当を手伝っていたホノカナが問う。


【 ゼンキョク 】

「いえ……なにやら、妙な気配を感じましてね。ですがまあ、カズサ殿がなんとかしてくれるでしょう」


【 ホノカナ 】

「そ、それならいいんですけど……」


【 ゼンキョク 】

「……ホノカナ殿、こちらの方をてあげてください」


【 ホノカナ 】

「えっ? でも、わたし、治療なんて――」


【 ゼンキョク 】

「…………」


 ゼンキョクは無言でホノカナを手招いた。

 いつになく厳かな様子に、黙って従う。


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 そこに横たわっている兵は、見るからに深手であり……ゼンキョクの医術をもってしても、手の施しようがないのは明らかだった。


【 ゼンキョク 】

「……では、頼みますよ」


【 ホノカナ 】

「……わかり、ました」


 ホノカナは頷いて、横たえられた手負いの兵の側にひざまずく。


【 負傷兵 】

「う……ぅ……痛く……なくなった……俺は……治った、のか……?」


 その兵士はまだ若く、二十歳そこそこのようだった。


【 ホノカナ 】

「……っ、はい、アン老師せんせいは、天下の名医なので……!」


 兵士の残った方の手を握りながら、ホノカナが囁く。

 ゼンキョクが、痛みを緩和する処置を施したらしい。

 それは失われゆく命への、せめてもの手向けであったろう。


【 負傷兵 】

「あんた……北の、訛りがある、な……生まれ、は……?」


【 ホノカナ 】

「わたしは……峰東ほうとうの生まれです」


【 負傷兵 】

「そう……か、俺も、だ……ずいぶん、戻ってない……が……今は、どう、なって、る……?」


【 ホノカナ 】

「……っ、今はもう、だいぶ落ち着いてるみたいですっ……」


 数年前、戦禍に見舞われ、荒れ果てた峰東ほうとうの地。

 現在でも、およそ平穏とは程遠い情勢だと聞いているが……ここでは、正しい情報は必要なかった。


【 負傷兵 】

「そう……か。家の……代々の、墓があるんだ……壊されて、なきゃ……いいんだが……」


【 ホノカナ 】

「きっと……無事だと思いますっ」


【 負傷兵 】

「そうだと、いいな……ああ……あいつ……元気かな……シズカ……」


【 ホノカナ 】

「シズカさん……お友達、ですかっ?」


【 負傷兵 】

「ああ……ちょっと、変わってて……面白い、やつ、なんだ……妹、みたいで、さ……また、会いたい……な」


【 ホノカナ 】

「会えますよ、元気になれば、きっと……! だから今は、ゆっくり休んで――――」


【 負傷兵 】

「…………」


【 ホノカナ 】

「……あっ……」


 ホノカナに看取られながら、鉄虎門の守備兵……否、峰東ほうとうのとある若者は息を引き取った。


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 目をつむり、祈るホノカナ。

 同郷の若者が、冥府で平穏を得られますように――


 と、そんなホノカナの厳かな願いを阻むかのように、


 ――オ゛、オ゛、オ゛オ゛オ゛……!!


【 ホノカナ 】

「――――っ!?」


 地の底から響くような、異様な叫び声が轟いた――

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