◆◆◆◆ 6-84 燎氏の変(70) ◆◆◆◆
その頃、外廷にある十二佳仙たちの詰め所においては……
【 拾弐の仙 】
「いや――ハハハ、惜しかった、惜しかった……!」
拾弐の仙が、愉快そうにパチパチと手を叩いている。
【 拾弐の仙 】
「反転反魂の術――めったなことでは仕掛けられぬ秘術がせっかく成功したというのに、よもや逆効果とは! ハハハ! こいつは傑作だ……!」
高笑いする拾弐の仙の周囲には、いくつもの骸が転がっている。
それは、彼の同僚だったもの……十二佳仙たちの屍に他ならない。
【 拾弐の仙 】
「残念、いや残念! 皆様方の尊い犠牲も、まったく無駄となりました。いやはや、これも是非なきことかな!」
反転反魂の術は禁忌の邪法であり、発動させるだけでも尋常ならざる力が必要である。
倒れ伏した方士たちは、その寿命を吸い尽くされ、干からびているのだ――それも、己の意志によらず。
【 拾弐の仙 】
「それにしても、先手を打つとは……〈護国の徒〉、いやはや、実に厄介な輩にて――おっ?」
*徒……仲間、一味の意。
倒れ伏していた方士の一人が、よろよろと身を起こした。
【 シジョウ 】
「……っ、ハァ、ハァッ……!」
【 拾弐の仙 】
「おお――生きておいででしたか、老師! いやいや、さすがは長年、宮中に巣食ってきただけのことはありますなあ!」
常人なら即死は免れないほどの大量の生気を吸われつつ、なおも黄龍・シジョウは生きていた。
エセ方士などと小馬鹿にされてはきたが、そこらの凡骨とはわけが違う、というところであろうか。
【 シジョウ 】
「そ……そなたっ……蒼某では、あるまい……!」
【 拾弐の仙 】
「フフ――確かに私は、蒼方士ではありません。あの御仁なら今ごろ、蚯蚓の餌になっておりましょうなあ」
拾弐の仙を名乗っていた男が、せせら笑う。
【 シジョウ 】
「……っ! 何者、だっ……そなたっ……! あのような術を、使いこなす、など……!」
反転反魂の邪法――
話に聞いたことはあったが、目にしたのは初めてのことである。
当初、シジョウたちが用いた“奥の手”は、陸の仙らの肉体を火種とし、ヨスガらを焼き尽くさんとした〈火走りの術〉であった。
ヨスガの判断の速さにより、間一髪で躱されたのだったが、その直後、この男が邪法を発動させたのだ。
【 拾弐の仙? 】
「フフ、ゆっくり自己紹介といきたいところですが、あいにく、そうもいかないようで――」
【 シジョウ 】
「…………!」
――ドォンッッ!
轟音が響き、扉が吹き飛んだ。
【 ミズキ 】
「失礼――鍵がかかっていたもので、勝手ながらブチ壊させていただきました」
【 エキセン 】
「まったく……人使いが荒いっ……」
煙の中から姿を見せたのは、ヨスガから十二佳仙の始末を託されたミズキとエキセンに他ならない。
【 シジョウ 】
「ぐっ……!」
【 拾弐の仙? 】
「おやおや! お早いお越しで――」
【 ミズキ 】
「…………っ」
室内の惨状を一瞥したのち、ミズキはシジョウらに視線を向ける。
【 ミズキ 】
「もはや勝負はつきました。素直にこちらに従うならば、命までは取りますまい――それが、陛下のご意向ですので」
【 ミズキ 】
「――ですが、逆らってもらっても一向にかまいませんよ。十二賊の皆様方」
なんなら逆らってください、と言わんばかりの剥き出しの殺意を向ける。
【 シジョウ 】
「くっ……ううっ……」
【 拾弐の仙? 】
「おやおや、怖い怖い! さて、お邪魔をするのも無粋ですので、私はここらでお暇するとしましょう。あとはどうぞ、ごゆっくり」
【 ミズキ 】
「はぁっ? 逃がすとでも……!」
【 拾弐の仙? 】
「なあに、ご心配なく。私は部外者ですので! 役目も終わったことですし、ここいらで舞台を去らせていただきますよ」
そう言って、男はかぶっていた覆面を外し、無造作に投げ捨てた。
露わになったのは、皮肉っぽい笑みを浮かべた若者の顔。
【 若い男 】
「それではこれにて失礼! 皇帝陛下によろしくお伝えください。いずれ、〈黒羽将軍〉がお目にかかりに参ります、とね――」
それだけ告げると、男は一瞬にしてその場から掻き消えた。
【 ミズキ 】
「――――っ……!」
【 エキセン 】
「……っ、なんだ、今の男は……?」
【 ミズキ 】
「……さしあたり、放っておきましょう。それよりも……」
刺すような視線を、シジョウへと向けるミズキ。
【 シジョウ 】
「…………っ」
【 ミズキ 】
「あなたには、御同行願います――黄龍老師」
【 シジョウ 】
「……私とて、引き際は心得ている。もはや無駄な抵抗はすまい」
【 ミズキ 】
「そうですか……それは殊勝なお心がけですこと」
丁重な言葉遣いとは裏腹に、ミズキの殺気が膨れ上がる。
【 エキセン 】
「! ミズキ殿っ……!」
【 ミズキ 】
「ご心配なく、これは私怨ではありません。相手は方士、腕の一本や二本は落としておかねば、安心できぬというものっ……!」
【 シジョウ 】
「……うっ……!」
【 ミズキ 】
「――はあッ!」
ミズキの〈空刀〉が、シジョウ目がけて放たれる――
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