◆◆◆◆ 6-79 燎氏の変(65) ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「……っ、術を仕掛けられた瞬間、陛下が、生きていなければ――生者で、なければっ……!」
【 ミズキ 】
「! 死者が反転し、生者となる……!? し、しかし、そんなことがっ……」
【 ホノカナ 】
「……わたしも、信じられませんでした。でも……」
【 ホノカナ 】
「じゃ、じゃあ、陛下を助けるためにはっ……」
【 タイシン 】
「そうだ、術が発動する直前に、彼女を殺すしかない。……他でもない、きみが、その手でね」
【 ホノカナ 】
「えええっ!? そ、そんなの無理ですっ!」
【 タイシン 】
「まぁ、そうだろうね。そもそもきみの腕では、確実に彼女を殺すのは難しい。相手が、どれだけ隙だらけであったとしても」
【 タイシン 】
「そこで、こういうのはどうかな? その一瞬だけ……つまり反転反魂の術を仕掛けられる寸前だけ、私にきみの身体を借して欲しい」
【 タイシン 】
「私もさほど剣は得意じゃないが、無防備な相手を仕留めるくらいのことは可能だからね」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
あまりのことに言葉を失い、茫然となっているホノカナに構わず、タイシンは話を続ける。
【 タイシン 】
「そうそう、ちなみに目が覚めたら、この夢の内容をきみはすべて忘れる。覚えていたら、不審な態度を取ってしまうだろう? 思い出すのは、すべてが終わってからになる」
【 タイシン 】
「あとは、きみの覚悟次第だよ、ホノカナ。私の言葉を信じて、私に自分と彼女の命を懸けられるかな?」
【 ホノカナ 】
「……っ、うっ、うぅぅっ……」
【 タイシン 】
「きみが私を信じて身を委ねてくれるなら、ことは成就し、きっと彼女を助けられるだろう。ただし、少しでもきみに迷いがあれば……しくじるだろうね」
【 タイシン 】
「それに、たとえ成功したとしても、それでめでたしめでたしとは限らない」
【 タイシン 】
「もし陛下の蘇生が遅れれば、事情を知らない周りの者に殺される恐れもある。はたから見れば、きみはただの主殺しにすぎないのだから」
【 ホノカナ 】
「……ちょっ、ちょっと待ってください! 情報量が多過ぎてっ……ええっ? そんな、いきなり覚悟しろって言われても……」
【 タイシン 】
「ああ、気持ちはわかる。しかしあいにく、あまり時間がなくてね。持ち帰って週末までに検討します、というわけにはいかないんだ。この場で決めてもらいたい」
【 ホノカナ 】
「~~~~っ……!」
【 タイシン 】
「とどのつまりは、私のことを信じられるかどうか、だよ。もしかすると私は、きみを騙して、陛下を暗殺させようとしているだけなのかもしれないのだから」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
【 タイシン 】
「さて、どうするね? 小さなホノカナ」
【 ホノカナ 】
「……っ、わ、わたし、は――」
しばしの迷いののち、ホノカナは顔を上げた。
【 ホノカナ 】
「……っ、わかりました。お任せ、します!」
【 タイシン 】
「ほう――本当に、いいのだね?」
【 ホノカナ 】
「はいっ、焦さんには、いっぱい恩があります。でも……それだけじゃなくて」
【 ホノカナ 】
「わたしは――焦さんは、ウソはつかない人だと、そう思うので!」
【 タイシン 】
「――そうか」
ホノカナの言葉に、タイシンは微笑を返したのだった――
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