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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
173/421

◆◆◆◆ 6-78 燎氏の変(64) ◆◆◆◆

【 ミズキ 】

「…………っ!」


 よく知る声を耳にして、ミズキは我に返った。


【 ヨスガ 】

「……こ……殺して、は……ならんっ……!」


【 ミズキ 】

「ヨス……ガ……!?」


【 ヨスガ 】

「はぁっ、はぁあっ……! ゲホッ……ゴホッ!」


 間違いなく、心臓を刺し貫かれていたにもかかわらず。

 ヨスガは、まだ息があった。


【 ヨスガ 】

「……はぁっ、ふうっ……我は……ゴホッ……死んでは……おらぬっ……ハァ……ふぅぅっ……」


 いや、それどころか、徐々に呼吸も整ってきていた。


【 ミズキ 】

「――――っ」


 思わず、その場にへたり込んでしまうミズキ。


【 カズサ 】

「へ、陛下っ! ご無事なのですかっ!? 陛下っ! 陛下っっ!! 陛下ぁぁぁ~~~~っっっ!!!」


【 ヨスガ 】

「い、今まさに、鼓膜が破れそうになっておるっ……! 耳元で騒ぐのはよせっ……!」


【 ランブ 】

「さ、さすがだ……アン老師せんせい! よくぞっ……!」


【 ゼンキョク 】

「いえ、これは――違います」


 ヨスガの脈を取りながら、冷静に首を振るゼンキョク。


【 ランブ 】

「…………っ?」


【 ゼンキョク 】

「これは、私の治療とは無関係です。私が触れる前に、陛下は“すでに、治っていた”――」


【 エキセン 】

「ど……どういう――ことだ……!?」


【 シラクサ 】

「か、かか、彼女には、まるで、殺気がなくっ……そ、そのため、防げません、でしたっ……!」


 一同の視線が、ホノカナに向けられる。


【 ホノカナ 】

「ぁ、あっ……ああっ……ああぁ……」


 ようやく目の焦点が合ってきたホノカナが、己の両手を見つめていた。


【 ホノカナ 】

「お、思い出し、ましたっ……わ、わた、しっ……」


【 ホノカナ 】

「――夢の、中で……約束、を――」




 ――それは、この騒動が起きる直前に彼女が見ていた、夢の中の出来事である。


【 タイシン 】

「もうすぐ、皇帝陛下に災難が降りかかる。その結果……」


【 タイシン 】

「――彼女は、命を落とすことになるだろう」


 夢の中で彼女にそう告げたのは、ショウ・タイシン。

 天下屈指の政商であり、ホノカナの恩人にして……彼女を宮中へ送り込んだ張本人でもある。


【 ホノカナ 】

「えええっ!? ど、どうしてそんなことが、わかるんですかっ……!?」


【 タイシン 】

「なに、私はいささか占いの心得こころえがあってね」


 途方もない予言を聞かされて狼狽ろうばいするホノカナに、さらりと告げるタイシン。


【 タイシン 】

「陛下について占ったところ、この結果が出たわけだ。大凶も大凶……恐るべき災難に遭う、とね」


【 ホノカナ 】

「恐るべき、災難っ……?」


【 タイシン 】

「具体的に言えば、邪法による暗殺だよ」


【 ホノカナ 】

「!?」


【 タイシン 】

「〈反転反魂はんてんはんごん〉と呼ばれる恐るべき邪術が、彼女を狙い撃ちにする。文字通り、これを受けた生者はたちどころに死者となる。回避することは不可能だ」


【 ホノカナ 】

「そ、そんなっ!?」


【 タイシン 】

「もとより、よほどの条件が揃わねば使えない秘術だが、このときは、さまざまな条件が揃ってしまうんだ。例の方士も、そばにいないはずだしね」


【 タイシン 】

「だがたったひとつ、彼女を救う方法がある。それはすなわち――」

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