◆◆◆◆ 6-78 燎氏の変(64) ◆◆◆◆
【 ミズキ 】
「…………っ!」
よく知る声を耳にして、ミズキは我に返った。
【 ヨスガ 】
「……こ……殺して、は……ならんっ……!」
【 ミズキ 】
「ヨス……ガ……!?」
【 ヨスガ 】
「はぁっ、はぁあっ……! ゲホッ……ゴホッ!」
間違いなく、心臓を刺し貫かれていたにもかかわらず。
ヨスガは、まだ息があった。
【 ヨスガ 】
「……はぁっ、ふうっ……我は……ゴホッ……死んでは……おらぬっ……ハァ……ふぅぅっ……」
いや、それどころか、徐々に呼吸も整ってきていた。
【 ミズキ 】
「――――っ」
思わず、その場にへたり込んでしまうミズキ。
【 カズサ 】
「へ、陛下っ! ご無事なのですかっ!? 陛下っ! 陛下っっ!! 陛下ぁぁぁ~~~~っっっ!!!」
【 ヨスガ 】
「い、今まさに、鼓膜が破れそうになっておるっ……! 耳元で騒ぐのはよせっ……!」
【 ランブ 】
「さ、さすがだ……晏老師! よくぞっ……!」
【 ゼンキョク 】
「いえ、これは――違います」
ヨスガの脈を取りながら、冷静に首を振るゼンキョク。
【 ランブ 】
「…………っ?」
【 ゼンキョク 】
「これは、私の治療とは無関係です。私が触れる前に、陛下は“すでに、治っていた”――」
【 エキセン 】
「ど……どういう――ことだ……!?」
【 シラクサ 】
「か、かか、彼女には、まるで、殺気がなくっ……そ、そのため、防げません、でしたっ……!」
一同の視線が、ホノカナに向けられる。
【 ホノカナ 】
「ぁ、あっ……ああっ……ああぁ……」
ようやく目の焦点が合ってきたホノカナが、己の両手を見つめていた。
【 ホノカナ 】
「お、思い出し、ましたっ……わ、わた、しっ……」
【 ホノカナ 】
「――夢の、中で……約束、を――」
――それは、この騒動が起きる直前に彼女が見ていた、夢の中の出来事である。
【 タイシン 】
「もうすぐ、皇帝陛下に災難が降りかかる。その結果……」
【 タイシン 】
「――彼女は、命を落とすことになるだろう」
夢の中で彼女にそう告げたのは、焦・タイシン。
天下屈指の政商であり、ホノカナの恩人にして……彼女を宮中へ送り込んだ張本人でもある。
【 ホノカナ 】
「えええっ!? ど、どうしてそんなことが、わかるんですかっ……!?」
【 タイシン 】
「なに、私はいささか占いの心得があってね」
途方もない予言を聞かされて狼狽するホノカナに、さらりと告げるタイシン。
【 タイシン 】
「陛下について占ったところ、この結果が出たわけだ。大凶も大凶……恐るべき災難に遭う、とね」
【 ホノカナ 】
「恐るべき、災難っ……?」
【 タイシン 】
「具体的に言えば、邪法による暗殺だよ」
【 ホノカナ 】
「!?」
【 タイシン 】
「〈反転反魂〉と呼ばれる恐るべき邪術が、彼女を狙い撃ちにする。文字通り、これを受けた生者はたちどころに死者となる。回避することは不可能だ」
【 ホノカナ 】
「そ、そんなっ!?」
【 タイシン 】
「もとより、よほどの条件が揃わねば使えない秘術だが、このときは、さまざまな条件が揃ってしまうんだ。例の方士も、そばにいないはずだしね」
【 タイシン 】
「だがたったひとつ、彼女を救う方法がある。それはすなわち――」
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