◆◆◆◆ 6-77 燎氏の変(63) ◆◆◆◆
血だまりの中に、少女が伏している。
その者の名は、焔・ヨスガ。
宙帝国の第207代皇帝である。
至尊の位にある彼女が、今まさに、暗殺の刃に斃れたのだった。
【 ゼンキョク 】
「……陛下!」
信じ難い状況に、誰もが時が止まったかのように茫然とする中、最初に動いたのは晏・ゼンキョク。
とっさにヨスガに駆け寄って抱え起こすと、傷口へと手を当てる。
【 ミズキ 】
「あ――あ、あああっ……!」
次いで我に返ったのは、女官長ミズキであった。
【 ミズキ 】
「よくも――よくも、ヨスガをッッ!!」
みなぎる怒気に任せて、下手人である鱗・ホノカナ目がけ、渾身の空刀を放たんとする――
――ガシッ!
【 ミズキ 】
「…………っ!」
【 シラクサ 】
「お、おま、お待ちをっ……!」
間一髪、いずこかに潜んでいた我影也こと颯・シラクサが飛び出してきて、その腕を掴んで押しとどめていた。
さもなくば、ミズキの怒りの一閃は、ホノカナの肢体をズタズタに引き裂いていたことであろう。
【 カズサ 】
「な、なっ、なんてことをっ――あなたはっ!!」
震える手足でホノカナに駆け寄り、その手から血塗られた剣を払い落とす閃・カズサ。
【 ホノカナ 】
「……っ、あ、あ……あぁ……」
当のホノカナはなすがままで抵抗もせず、うつろな目のまま、ぺたんとその場に尻もちをつく。
【 ランブ 】
「――――っ」
凪・ランブは絶句し、ただ、立ち尽くしている。
かつて、怒りに駆られたヨスガがホノカナに斬りかかろうとした際、彼女が止めたことがあった。
あれから数ヶ月、まさか、このようなことになろうとは――
【 侍衛たち 】
「…………っ」
侍衛たちは目の前の光景が信じられず、色を失って固まっている。
【 エキセン 】
「……なぜっ、こんなっ……」
炮・エキセンもまた棒立ちになって、動くこともできずにいた。
【 ミズキ 】
「貴様……貴様ッ! なぜ、ヨスガを護らなかったッ!?」
シラクサを睨みつけながら、ミズキが悲痛な怒号を放つ。
【 シラクサ 】
「そ、そっ、それはっ……そのっ――」
【 ミズキ 】
「離せッ! 離さぬとあらば――貴様も“断つ”ッッ!!」
【 シラクサ 】
「…………!」
見る間に、ミズキの肢体から強烈な殺気が放たれる。
ホノカナとシラクサどころか、その場にいるすべてを殺戮しかねないほどの、すさまじい憤怒の気……!
【 侍衛たち 】
「…………っ!?」
【 ランブ 】
「ミズキ殿っ……!」
【 カズサ 】
「お、大姐っ……!」
【 ミズキ 】
「う、ううっ……あああああぁぁッッ!!」
――もし次の瞬間、声が響かなければ、その場は流血の修羅場と化していたに違いない。
【 ???? 】
「ま……てっ……大姐っ……!」
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