◆◆◆◆ 6-76 燎氏の変(62) ◆◆◆◆
ゴオオォォ……
燃えさかる極龍殿の中から、かろうじて脱出を果たしたヨスガ一行。
少しでも遅れていれば、煙にまかれて、危ういところだったに違いない。
他の宮殿とは距離があるので、延焼の心配はなさそうだった。
【 カズサ 】
「う、ううう……か、身体がもう、無理……無理ぃ……(ガクガク)」
【 ゼンキョク 】
「先ほど鍼を打ったばかりですが、もう四五本ばかり追加しておきますか?」
【 カズサ 】
「そんなにたっぷり打たないとダメなの!? ええ、もうっ、好きなだけ打って頂戴っ……!」
【 エキセン 】
「人を爆弾あつかいとは……つくづく、趣味が悪いっ……!」
【 ランブ 】
「遅れた者はいないなっ?」
【 侍衛長 】
「はっ……! 皆、そろっております!」
【 ミズキ 】
「間一髪でした……陛下の判断が功を奏しましたね」
宮殿内での待機を選んでいたなら、一手、遅れたかもしれない。
その意味では、ヨスガの決断はまさに妙手だったわけだが……
*妙手……碁や将棋における、優れた手の意。
【 ヨスガ 】
「………………」
【 ミズキ 】
「……陛下?」
当のヨスガは、どこか釈然としない面持ちだった。
いかに、幾度も修羅場を潜り抜けてきた強者たちといえども。
危ういところを逃れて、ほんのわずかなりとも安堵を覚えなかったかと言われれば、それは嘘になるであろう。
【 ヨスガ 】
「油断するでない。もしも、我があやつらの立場ならば――」
周囲を見渡しながら、ヨスガがいった。
【 ヨスガ 】
「――今、このときにこそ、仕掛けるであろう」
【 ???? 】
「ご明察です――陛下」
――ドスッ!!
【 ヨスガ 】
「ぐっ……!?」
くぐもった呻き声が、漏れた。
【 ミズキ 】
「――――っ!?」
【 ランブ 】
「な――――」
【 カズサ 】
「!?!?」
【 エキセン 】
「――――っ!」
【 ヨスガ 】
「…………!!」
ヨスガの胸から、白刃が突き出している。
すなわち、背後から剣で刺し貫かれたのだ。
そして、その剣の持ち主は――――
【 ホノカナ 】
「…………」
ヨスガより宝剣を託された宮女、鱗・ホノカナ。
皇帝陛下を、きみの、その手で――
――殺してほしい。
【 ヨスガ 】
「………………」
――ドサッ!
ヨスガが――否、ヨスガだったものが、地に崩れ落ちた。
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