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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
17/421

◆◆◆◆ 2-7 その名は幻聖魔君 ◆◆◆◆

 迷路のような回廊を抜けた先で。


【 ヨスガ 】

「――皇帝を待たせるとは、万死に値するぞ!」


【 ホノカナ 】

「…………!」


 ホノカナは、目を疑った。

 そこにいたのは、彼女やミズキと同じく平服をまとった、皇帝ヨスガだったのである。


【 ミズキ 】

「申し訳ございません、陛下」


【 ヨスガ 】

「ふん、どうせそこのれ者がぐずぐずしていたせいであろう?」


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 ヨスガの視線に、ホノカナは思わず立ち尽くす。

 ふだんの豪奢な衣装とちがい、簡素な服装の彼女は、年相応に見える――が、その目ばかりは、いつもの鋭さを隠しようもない。

 しかし、昼間に見たような怒りの炎は、そこにはなかった。


【 ホノカナ 】

「え、えっと……あの――」


【 ヨスガ 】

「おっと、口を利くな。そなたの大声は邪魔になるゆえな」


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 刀を抱えているせいで口を押さえられないので、下唇を噛んで耐え忍ぶ。


【 ランブ 】

「……陛下。どうか、私もご一緒に」


 気づくと、ヨスガのかたわらにランブの姿があった。

 ひざまずき、視線を合わせている姿は、まるで母と幼子のようである。


【 ヨスガ 】

「ならぬと言っておろう? けいは目立ちすぎる。一緒にいては、獲物が寄ってこぬわ」


【 ランブ 】

「しかし……」


 と、なにやら揉めているところへ。


【 女の声 】

「――そうですとも! ナギ将軍はしっかりお留守番にお励みなされよ!」


 ふいに、やけに甲高い声が響いた。


【 奇妙な姿の女 】

「ご安心あれ! なにせこの私が! このあふれる智謀と判断力の持ち主・〈幻聖魔君げんせいまくん〉が陛下をお守りするのですから! わはははは!」


 高笑いとともに姿を現したのは、奇妙な出で立ちの女だった。

 曲がりくねった杖を手に、見慣れない装束をまとっている。


【 ミズキ 】

アイ老師せんせい、大声はお控えください。陛下の御前です」

 *老師……ここでは先生への敬称。


【 藍老師 】

「おお、これは失敬! 陛下にはご機嫌うるわしゅう!」


 大仰に一礼してみせる姿に、ホノカナは思い出す。


【 ホノカナ 】

(たしか、占星術がどうとかいう……?)


 例の〈十二佳仙〉をはじめ、宮中に出入りする方術師のたぐいは珍しくもない。

 ヨスガの周りにはそういった輩はほとんどいなかったが、この風変わりな人物の姿は、ちょくちょく見かけていた。


【 ヨスガ 】

「……セイレン、平服で参れと伝えたはずだが?」


【 セイレン 】

「もちろん、これが我が平服なれば! ふだんより、はるかに地味でございましょう?」


 そういえば、宮中ではもっとひらひらとした飾りがついていたりして、派手だったような気がする。

 確か、異名は人呼んで幻聖魔君、本名は……


【 ヨスガ 】

「……まぁ、よかろう。方術師はだいたいそんなものゆえな」


【 セイレン 】

「あぁ、滲み出る我が神気が、気取られねばよいのですが――おや」


【 ホノカナ 】

「あ」


 芝居がかった物言いを続けていた女の目が、ホノカナと合う。


【 セイレン 】

「おお――あなたが噂の猛者もさ! いやはや、なんとも命知らずな……血にまみれた美少女皇帝を衆の面前で辱めるとは、たいしたもの! 席を外していたのがなんとも無念、この〈アイ・セイレン〉、まったくもって不覚のきわみでございました!」


【 ホノカナ 】

「……っ、あ、あわわ……」


 ホノカナに覆いかぶさらんばかりにして、熱弁を振るってくる。


【 ヨスガ 】

「……気が済んだか? そろそろゆくぞ。ぐずぐずしておったら、夜が明けてしまうわ!」


【 ランブ 】

「陛下……」


【 ミズキ 】

「ランブきょう、後のことはおまかせいたします」


【 ランブ 】

「……心得た」


【 セイレン 】

「おお、参りますか! さぁさぁ、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた……?」


 ヨスガを先頭に、ミズキとセイレンが歩き出す。

 ホノカナは茫然としていたが、


【 ランブ 】

「――陛下を、たのむ」


 ランブに軽く肩を押され、ようやく己のなすべきことを悟った。


【 ホノカナ 】

(よ、よくわからないけど……!)


 今はとにかく、ついていくしかなさそうだった。

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