◆◆◆◆ 6-73 燎氏の変(59) ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「燃拳豪仙……!? それってたしか――神仙の……!?」
【 ミズキ 】
「そう、神祖に仕えた武烈十七卿のひとり、煌老師の傍らにあって彼を助けたという〈二友〉――それが燃拳豪仙と、火煉公主」
【 ホノカナ 】
「あ、あの方が、神仙だったなんてっ……」
確かに、いささか風変わりではあったが……まさか、人ならざる存在だったとは、まるで気づけなかった。
【 ヨスガ 】
「不明を恥じることはない。神仙といっても、一見してわかるような者ばかりではないゆえな。中には、素知らぬ顔で民に混じって暮らしている輩もいるほどだ」
【 ホノカナ 】
「そ、そうなんですね……」
もしかして、今まで会ってきた人たちの中にも、それと気づかないだけで、神仙がいたのだろうか……と思うホノカナ。
【 ホノカナ 】
「あっ……じゃあ、もしかして、カツミさんの後に会った、あの子も……!?」
帝都を焼く炎は、今なお四方で猛り狂い、建物を焼き、人々を追いやっている。
【 アズミ 】
「ぼうぼうって、よく燃えてるなー」
宮殿の屋根に腰かけた少女が、都を焼く大火を見つめている。
かつてホノカナと会った娘、煉・アズミであった。
【 アズミ 】
「……んー? ランハ? どうしたのー? え、そろそろ、火を消せー? もっと見てたいのにー」
ふいに頭の中に響いた声に、不満そうにしている。
【 アズミ 】
「……ごほうび、くれるー? んー、それなら、いいかなー」
と、アズミは炎上する市街を指差し――
【 アズミ 】
「――“煥”」
そう言って指を挙げると、帝都を焦がしていた炎が、たちどころに中空へと吸い上げられていく。
炎はそのままひとつの塊となり、巨大な火の玉と化した。
【 アズミ 】
「どこか、いっちゃえー」
と、アズミがポイと投げるような仕草をすると、そのまま火球はいずこかへと飛び去っていったのだった……
【 ホノカナ 】
「そ、そんな……ちょちょいのちょいで、みやこ中の火事を消しちゃったんですか……!?」
【 ヨスガ 】
「火煉公主……それほどの力を見せたなら、これはさすがに、本物と見なさねばならぬようだな」
【 ミズキ 】
「そうですね……迂闊に手を出さずにおいて正解だったようです」
【 ホノカナ 】
「そ、そんなに落ち着いてていいんですかっ? もし、こっちに攻めてきたらっ……!」
【 ヨスガ 】
「あちらが言っていたであろう? こちらが手を出さぬ限りは、動かぬとな」
【 ホノカナ 】
「で、でも……」
【 ヨスガ 】
「神仙というのは、現世の争いに首を突っ込まぬものだ。原則的には、だが」
【 ミズキ 】
「ひとまず、東の宮については触れずにおきましょう。……外廷の状況は?」
【 シラクサ 】
「はっ……十二佳仙どもは、もはや打つ手なく、慌てふためいておりましたが、新たになにやら動き始めたようで……」
【 ヨスガ 】
「ふん、往生際の悪い連中よな。だが、放ってもおけぬか」
【 ミズキ 】
「窮鼠猫を噛む――とも言います。油断は禁物かと」
【 ヨスガ 】
「して、〈鉄虎門〉の方はどうだ?」
宮城と内城を繋ぐ大門をくぐると、左右に広大な祭場がある。
その奥に、外廷へと繋がる〈鉄虎門〉があった。
【 シラクサ 】
「はっ、叛徒が押し寄せており、守兵がかろうじて押しとどめておりますが、いかんせん多勢に無勢にて……このままでは厳しいかと」
【 ヨスガ 】
「ふむ……状況はわかった。されば――」
【 ヨスガ 】
「――これよりいかに動くべきか、そなたたちの考えを聞こう」
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