◆◆◆◆ 6-71 燎氏の変(57) ◆◆◆◆
一息、ついたところで……
【 ヨスガ 】
「あらためて、皆に紹介するとしよう。我影也――すなわち、颯・シラクサだ」
【 シラクサ 】
「~~~~っ……!」
一同の視線を集めて、真っ赤になって萎縮してしまっている。
【 シラクサ 】
「よ、よよ、よろしく、おね、おね、お願いいたしますっ……」
どもりに加えて声も小さく、何を言っているのかまるでわからない。
【 カズサ 】
「……この挙動不審な童子が、本当に……?」
不審の色を隠さないカズサ。
ゼンキョクに鍼を打たれたり灸を据えられたりしたことで、多少調子を取り戻している。
【 ランブ 】
「陛下の窮地を救ってくれたとか……礼を言わせてほしい」
【 シラクサ 】
「~~~~っ! そそ、そんな、あわ、あわわわ……!」
巨体を折り曲げて感謝を告げるランブに、ますます動揺を露わにしている。
【 ヨスガ 】
「では、現在の状況を聞こう――シラクサ」
【 シラクサ 】
「――――っ」
【 ホノカナ 】
「えっと……今、周りはどうなってます?」
【 シラクサ 】
「は、現在のところ、まず内廷においては――」
ヨスガに直接声をかけられても口ごもっていたシラクサだが、ホノカナにうながされると、よどみなく説明を開始した。
【 カズサ 】
「(この方、どうして小万勇さんを経由しているのかしら……?)」
【 ミズキ 】
「(さぁ……彼女に懐いているのでは?)」
事情を知らない面々の困惑はさておき……
【 シラクサ 】
「――まず、凪公、閃公が戦った剣士ですが、すでに姿を消しており、宮城内に気配はありません」
【 ランブ 】
「うむ……」
【 カズサ 】
「どうして、断言できるのかしら?」
【 シラクサ 】
「そ、そそ、それは、その――」
【 ホノカナ 】
「……どうして、わかるんですか?」
(※作者注:以下、ホノカナを経由するくだりは省略する)
【 シラクサ 】
「は――宮城内の各地に我が〈分身〉を仕込んであり、それを経由して、様子を探ることが可能です。情報収集程度で、戦いの手助けなどはできませんが……」
【 ミズキ 】
「なるほど、城内のどこにいても、視線を感じてはいましたが……そういうことでしたか」
【 シラクサ 】
「そして、女官長と晏公が撃退した妖魔ですが……こちらも、気配はありません。ただ、妖魔は理外の存在なので、確証はございませんが」
【 ミズキ 】
「仕方ないでしょうね……では、逃げ出した刺客の一味は?」
【 シラクサ 】
「は――裏門から離れた後、東の宮へ向かった由」
【 ミズキ 】
「それなら……心配は無用でしょうね」
【 ヨスガ 】
「まあ、そうなるな」
【 ホノカナ 】
「えっと……でも、大丈夫なんですか? 国母さまの方は……」
【 ミズキ 】
「心配は無用です。あなたも、会ったのでしょう? 例の〈二友〉に」
【 ホノカナ 】
「えっ……?」
これより、少し前のことである。
【 刺客の頭目 】
「……はぁっ、はぁあっ……」
【 他の刺客 】
「頭目っ……ご無事ですかっ?」
【 刺客の頭目 】
「……っ、大事ないっ……」
ミズキや妖魔によって返り討ちにあったかの刺客の一団が、態勢を立て直そうとしていた。
【 刺客の頭目 】
「……何人、残っている?」
【 他の刺客 】
「は……五名です」
【 刺客の頭目 】
「そうか……」
【 他の刺客 】
「どういたしましょうっ……?」
【 刺客の頭目 】
「…………」
【 刺客の頭目 】
「……この人数では、もはや当初の目的を果たすことはかなわぬ」
【 刺客の頭目 】
「されど、何の手柄も立てず、おめおめと引き下がれるものか……!」
【 他の刺客 】
「ではっ……?」
【 刺客の頭目 】
「目標を変える! 金の宝が無理ならば、銀の宝を手にするのみ……!」
【 他の刺客 】
「……はっ!」
刺客たちは、東の宮……すなわち、煌太后の住まう宮殿へ、まっしぐらに駆け出した。
もとより、狙うは銀の宝、皇太后の首にほかならない。
【 他の刺客 】
「――頭目! 何者かが立ちはだかっております……!」
【 刺客の頭目 】
「む――たった一人……しかも、手ぶらだと……!?」
先ほどの裏門での苦闘を思い出し、思わず足が止まる刺客たち。
【 軽装の女 】
「やぁ、お客さんがた。こんな夜更けに、何用だい?」
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