◆◆◆◆ 6-67 燎氏の変(53) ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「そんな……セイレンさま……!」
シラクサから地下の様子を聞かされ、ホノカナは沈痛な声を漏らす。
【 ヨスガ 】
「…………」
【 ホノカナ 】
「ううっ……お見事です……百戦百敗軍師とか思っちゃってて、本当に、すみませんでした……!」
【 ヨスガ 】
「……いや、待て。爆発したのなら、振動があるのではないか?」
【 ホノカナ 】
「……あれ? そういえば……どうなってるんですっ?」
【 シラクサ 】
「は――」
【 セイレン 】
「ああ……道半ばで斃れるとは、無念……しかしこれも、避けがたいさだめではあったのでしょう――これも我が才が天に愛されたがゆえの、悲劇……!」
【 ???? 】
「――それは――違うと、思います――」
【 セイレン 】
「……えっ?」
目を開くと、セイレンは地下通路に倒れていた。
【 セイレン 】
「……!? こ、これは……私は、自爆したはずではっ……」
【 ???? 】
「――それは、困るので――解除させて、いただきました――」
【 セイレン 】
「……!? あなたはっ……」
セイレンのかたわらに佇んでいるのは、片目に鏡玉を装着した異装の女性である。
【 セイレン 】
「げっ!? む、無限書廊の……!」
【 ミツカ 】
「はい――管理人の――紅です――」
かつて迷惑行為を働いたセイレンを書物に変じさせたことのある方士、紅・ミツカであった。
【 セイレン 】
「な、なぜあなたが、ここにっ?」
【 ミツカ 】
「それは――あなたが――この書棚を、勝手に持ち出したから――です」
【 セイレン 】
「はっ……?」
見れば、セイレンが化けていたはずの本棚が、まだそこにある。
【 セイレン 】
「ええっ!? 私、この本棚に変化したはずじゃ……」
【 ミツカ 】
「――どういう理屈かは、わかりませんが――突然、書棚がごっそりと消え失せてしまったので――追いかけて、来ました」
【 ミツカ 】
「すると――あなたが、書棚と、混じり合っていたので――」
【 セイレン 】
「ええ……!?」
変化ではなく、本棚を召喚し、融合していた……と、いうことらしい。
【 ミツカ 】
「こういうことは――困ります――控えて、ください――」
【 セイレン 】
「あっ、はい、すみません……ではなくっ! 例の、絡繰りは……!?」
【 ミツカ 】
「あぁ――これ――ですか――?」
【 セイレン 】
「あ……」
ミツカの手にした書物の表紙には『図解! 絡繰りのひみつ』とあり、かの蟲じみた絡繰りの絵が描かれていた。
【 ミツカ 】
「興味深かったので――つい、書にしてしまいましたが――いけなかったでしょうか――?」
【 セイレン 】
「あっ、いえっ、全然……! どうぞ、持ち帰ってください!」
【 ミツカ 】
「そうですか――では、私は、これで――」
と、書棚に手をかけるミツカ。
【 セイレン 】
「あっ――ちょ、ちょっと待ってください、私、死にそうなので、応急手当だけでも……!」
【 ミツカ 】
「……? とても、お元気そうですが――? そう――必要以上なほどに」
【 セイレン 】
「……あれっ!? 胸の傷が……」
致命傷と思われた深手が、なぜか治っていた。
【 ミツカ 】
「書棚と融合したことで――損傷が、均等化されたのでしょう――ああ、かわいそうに……」
傷ついた書を手に取り、嘆いているミツカ。
【 セイレン 】
「……うむ、終わり良ければすべてよし! ミツカ殿、ぜひとも、陛下にお引き合わせしたいのですが――」
【 ミツカ 】
「あいにくですが――少しでも早く、書を修繕したいので――おいとまします――」
【 ミツカ 】
「ああ――それから――」
【 セイレン 】
「……それから?」
【 ミツカ 】
「あなたは――当面――出禁とさせていただきますので――」
そう言い残したミツカは、書棚ともども、音もなく消え失せた。
【 セイレン 】
「…………」
【 セイレン 】
「ふっ……ふははっ、ふはははは! すべては――」
【 セイレン 】
「――私の! 計画通り!! でしたね!!!」
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