◆◆◆◆ 2-5 侠士 ◆◆◆◆
遅い夕食をすませたところで。
【 ホノカナ 】
「う~ん……」
これからどうするべきか、ホノカナは思案していた。
もっとも、この状況ではできることなど、ほとんどなにもないのだが。
【 ホノカナ 】
「はぁ……焦さんに合わせる顔がないよ……」
【 ???? 】
「――まったくだ。呆れてものもいえねぇ」
【 ホノカナ 】
「!?!!?」
ふいに部屋の奥から声がして、ホノカナは飛び上がった。
暗がりの中から、一人の男の姿がスウッと出てくる。
【 ホノカナ 】
「あっ……ユイさん!?」
【 ユイ 】
「バカ野郎、大声を出すんじゃねぇ……!」
【 ホノカナ 】
「んっ! んぶぶっ……!」
ユイの手で口をふさがれ、うめくホノカナ。
【 ホノカナ 】
「ぜぇぜぇ、ユイさん、どうしてここに……あっ、もしかしてユイさんも捕まったんですか!?」
【 ユイ 】
「……なにをどうすればそう思うんだ」
呆れ顔の壮士は、まさしく〈風雲忍侠〉こと虎王・ユイその人であった。
【 ユイ 】
「俺は姐さんに頼まれて、お前の様子を見に来たんだよ。いいか? 姐さんに頼まれてだからな。別にお前が心配だったとか、そういうのじゃねえんだ。間違えるなよ?」
【 ホノカナ 】
「なるほど、わかりました! わたしを心配して来てくれたんですね!」
【 ユイ 】
「…………」
ユイは頭痛をこらえるように眉間をこね回し、
【 ユイ 】
「……とにかく、案の定だ。なにかしくじってないかとは思ったが、まさか皇帝陛下を怒らせるとはな……」
【 ホノカナ 】
「うう……すみません。つい……」
【 ユイ 】
「つい……ですむ話じゃあねえだろうが。まったく……はぁ……」
ため息をつきつつ、
【 ユイ 】
「言っておくが、逃がしてくれるんじゃ? なんて期待するなよ。お前を連れて逃げるなんて、無理な相談だからな」
【 ホノカナ 】
「……わかってます。悪いのは、わたしですから……」
【 ユイ 】
「…………」
顔を伏せるホノカナをじっと見て、
【 ユイ 】
「……弟に、なにか伝言はあるか?」
【 ホノカナ 】
「あっ、はい! そう、それが心残りで……あの子、元気ですか?」
【 ユイ 】
「あぁ、元気すぎるほど元気だよ。手のかかる小僧だ」
【 ホノカナ 】
「ふふ」
その姿を思い浮かべたのか、微笑をうかべるホノカナ。
【 ホノカナ 】
「えっとですね、あの子に伝えたいのは……まず、わが鱗家は、今は落ちぶれちゃってるけど、由緒正しい家柄で――」
と、ホノカナが伝言を託そうとした矢先。
【 ユイ 】
「――ちっ、誰か来る……!」
【 ホノカナ 】
「あっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっ、すぐ終わりますから! もうちょっと……!」
【 ユイ 】
「もう遅いっ、あばよ、小姐! 運があれば、また会おう――」
たちどころに、ユイの気配は消え失せた。
【 ホノカナ 】
「あっ……う、うう……もうちょっとだったのに……」
がっくりと肩を落とすホノカナ。
【 ミズキ 】
「……誰か、いたのですか?」
【 ホノカナ 】
「あ――」
格子から、ミズキが不審そうな目を向けている。
【 ホノカナ 】
「い、いえっ! わたし、ひとりごとが多くてですね……!」
【 ミズキ 】
「……まぁ、いいでしょう」
と、ミズキは扉を開けて。
【 ミズキ 】
「ついてきなさい」
【 ホノカナ 】
「あ、あの――」
どこへ行くのですか、と言いかけて、ホノカナは口をつぐんだ。
【 ミズキ 】
「そう、あなたに質問は許しません。むしろ、これからはずっと黙っているように」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
口を手で押さえ、うんうん、とうなずいてみせるホノカナだった。
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