◆◆◆◆ 2-4 武人ランブ ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「…………」
その夜。
ホノカナの姿は、宮廷の暴室にあった。
*暴室……宮女の独房のごときもの。
【 ホノカナ 】
「……はぁぁー……」
さすがに、そのため息の重さたるや、昼間のそれとは比べものにならない。
【 ホノカナ 】
(やっちゃったなぁ……)
いくらなんでもあれはなかった、とホノカナは後悔しきりだった。
天子さまの命令に逆らうどころか、罵ってしまうとは……
【 ホノカナ 】
(わたし、どうなっちゃうんだろ……)
いかに楽天家の彼女といえど、さすがにこの状況を前向きにとらえることはできそうにもない。
あの場で斬り捨てられていても、決しておかしくなかったのだ。
よくて追放、おおかたは、
【 ホノカナ 】
(く、首を、チョッキンと……!)
自分の首に触れて、息をのむホノカナ。
【 ホノカナ 】
「はぁ……」
毛布一枚しかない床に寝そべる。
【 ホノカナ 】
(焦さんに、悪いことしちゃったなぁ……)
せっかく推薦してもらったというのに、これでは彼女の面目は丸つぶれであろう。
そればかりではなく、
【 ホノカナ 】
(これじゃあ、あの子も……)
と、弟の顔が頭によぎる。
それから――
【 ホノカナ 】
(……それに、陛下は……)
――ガチャリ。
【 ホノカナ 】
「――――っ」
扉の下の方にある小窓が開いて、食事が差し入れられた。
【 ホノカナ 】
「あっ――ありがとうございます!」
絶体絶命の危地にありながらも、ホノカナは礼をいった。
【 ランブ 】
「…………」
扉の上部にある格子に、人の顔がうかぶ。
【 ホノカナ 】
「あ――」
それは、昼間、彼女をかばった顔だった。
【 ホノカナ 】
「あ、ありがとうございます、ランブさま! あのとき、かばってくださって……!」
平伏して礼を述べるホノカナ。
昼間は動転してつい忘れていたが、これほどの巨体を持つ人物は宮城広しといえどもほかにはいない。
【 ランブ 】
「……私は、貴殿をかばったわけではない」
帝ヨスガの護衛の士、〈凪・ランブ〉は静かに答えた。
【 ホノカナ 】
「でも、おかげで助かりました! ありがとうございます!」
あらためて礼を告げるホノカナを一瞥して、
【 ランブ 】
「……なぜだ?」
【 ホノカナ 】
「えっ……?」
ぽかんとした顔を向けてしまう。
【 ランブ 】
「なぜ、貴殿は陛下にあのような暴言を放った?」
【 ホノカナ 】
「そ、それは、その――」
口ごもるホノカナ。
【 ホノカナ 】
「その……みんなが鞭打たれるなんておかしいと思って……ついでに、いつも思ってたことが口に出ちゃいまして……」
【 ランブ 】
「……そうか」
ランブは目を伏せ、大きく息をついた。
あっ、わたし呆れられてる……とホノカナは確信した。
【 ランブ 】
「……では、失礼する」
【 ホノカナ 】
「あっ……ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
格子にひっつき、ランブに呼びかける。
【 ランブ 】
「……なにか?」
【 ホノカナ 】
「あの――こんなこと、わたしが言えたことではないんですけど……」
「……もしできるなら、陛下に、わたしがごめんなさい! と謝っていた、ってお伝えください!」
【 ランブ 】
「――――」
否とも諾とも答えぬまま、足音を残して、ランブは去っていった。
【 ホノカナ 】
「…………」
ふぅ、とホノカナは腰を落とす。
それにしても、首をかしげざるをえない。
〈双豪斧〉ランブは名うての武人であり、今はヨスガの護衛の任をつとめている。
そんな彼女が、わざわざ食事を持ってきたりするとは……?
【 ホノカナ 】
(……ちょうど手が空いてたのかな?)
なにはともあれ、
【 ホノカナ 】
「……いただきます!」
質素な食事とて、今はありがたく頂戴せねばならぬだろう。
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