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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
136/421

◆◆◆◆ 6-41 燎氏の変(27) ◆◆◆◆

 セイジュが手にした鉄扇を振るや否や、床や空中に太極の図が浮かび上がり、魔物を包囲する。


【 奇妙な存在 】

「なに――なにこれ――いやな、かんじ――」


 動きを封じられた化け物が、不快そうに身をよじっている。


【 ミズキ 】

「これは……方術っ!?」


【 セイジュ 】

「まあ、ちょっとした真似事だけどね……決して、遊んでいたわけではないんだよ!」


 ミズキたちが攻撃を引き受けている間、ひそかに仕込んでいたらしい。


【 セイジュ 】

「さて、千載一遇の好機だが……妖魔を討つ方法はご存じかな、紅雪華どの!」


【 ミズキ 】

「どこかにある心臓を破壊するしかない、と……!」


【 セイジュ 】

「その通り――でも、表面からではその場所はわからない――ゆえに、ロウ姉妹きょうだい!」


【 ハナオ 】

「はっ……!」


 以心伝心でセイジュの意を悟ったハナオが突進し、奇怪な存在に密着して――


【 ハナオ 】

「――はぁあっ!」


 ――ドォンッッ!!


 至近距離で全身から放った一撃が、魔物を痛撃する!


【 奇妙な存在 】

「――――っ!」


 粉砕された体躯の中、唯一残った硬質のたまが浮かび上がる。


【 セイジュ 】

「あれだ――紅雪華どの!」


【 ミズキ 】

「――――っ!!」


 ――ブォンッ!


 渾身の力を込めて、ミズキは空刀そらがたなを放つ。

 その狙いたがわず、一撃で妖魔の心臓を打ち砕いた。


【 奇妙な存在 】

「あ――あぁ? ああああ……なんで? あれ……なんで……??」


 戸惑うような声とともに、“それ”の肢体が崩れていく。


【 奇妙な存在 】

「おかしいな……ねむい……もっと、たべたいのに……へんだな……」


【 セイジュ 】

「消える前に教えてくれ、お前は、“誰”だっ?」


【 奇妙な存在 】

「だれ? わた……わたし……? ミン……ガイ……?」


 そのまま、妖魔とおぼしき存在は、消滅していった。

 部屋に残されたのは女たちの骸と……丞相の冠のみである。


【 セイジュ 】

「ふうぅ……ロウ姉妹きょうだい、大丈夫かい?」


【 ハナオ 】

「はい……大したことはありません」


 さすがに疲弊ひへいの色は隠せないが、深手ではないようであった。


【 セイジュ 】

「紅雪華どのも、お見事だった」


【 ミズキ 】

「いえ……あなたがたの助太刀がなければ……たおせなかったでしょう。……本当に、たおせたのでしょうか?」


【 セイジュ 】

「たぶんね……妖魔の世界は独特だからなぁ。結局、正体はわからずじまい、か」


【 ミズキ 】

「でも……丞相がたおれたことには、違いありません」


【 セイジュ 】

「まあ、そうだね。これで万事、ことが片付いてくれるといいが……」


 おそらく、そうはならないだろう……と、言いたげであった。


【 ミズキ 】

「……知っていたのですか? 丞相と、妖魔の件……」


【 セイジュ 】

「まぁ、薄々とはね」


【 ミズキ 】

「いや……そもそも、私が今夜、ここに来ることも……?」


【 セイジュ 】

「ははは、いや、それは偶然だとも。なぁ姉妹きょうだい?」


【 ハナオ 】

「ええ……はい。そうだと知っていれば……他の仲間に代わってもらっていたかもしれません」


【 ミズキ 】

「……どうしてこの人は、こんなに私を嫌っているんですか?」


【 ハナオ 】

「は……? 盟主に対する数々の暴言、狼藉、忘れたとでも……?」


【 セイジュ 】

「もうそれはいいから、お暇しよう! 長居は無用だからね!」


 亡骸を布で覆い、祈りを捧げてから、三人は邸宅を後にした……




 その後……

 丞相の変死は隠蔽いんぺいされ、表向きは病死ということになった。

 しかし、実は皇帝ムジカによる暗殺という噂も広がり、キョ氏は失脚することとなった。

 丞相を除く――という大義名分を失った三氏は、次第に足並みが乱れ始め、さらには、新たに権力を手にしたコウ妃、そして方士集団・十二佳仙らの陰謀もあり、やがて内訌うちわもめを起こして衰退、ついにはことごとく滅亡させられた。

 その後、こんにちに至るまで、朝廷はコウ妃――ほどなく皇后となり、コウ后となった――と十二佳仙が支配する時代が訪れたのである。


 ミズキは謀叛人の一族として処罰されることとなったが、紆余曲折を経て、ふたたび宮城へ戻ってくることになった。

 なお、メイ・セイジュらとはあの夜に別れてそれきりだったが、のちに思わぬ再会を果たすこととなる。




 ――そして、今。


【 ミズキ 】

(この、悪寒は……まさか……!)


 あの雪の夜、丞相の邸で味わった、感覚。


【 ミズキ 】

(もしや――宮城内に、妖魔が……!?)

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