◆◆◆◆ 6-36 燎氏の変(22) ◆◆◆◆
【 頭巾の女 】
「地侠元聖……だとっ? ふざけたことをっ……!」
怒りを含んだ声がこぼれる。
【 地侠元聖? 】
「ええっ? いや、ホントなんだけどなぁ……」
【 頭巾の女 】
「地侠元聖といえば、交龍(帝国東北部)を荒し回る天下の大盗……その首領が、こんなところをうろついているはずもなし!」
【 地侠元聖? 】
「う~ん、そう言われると痛いところなんだけどねぇ」
地侠元聖と名乗った男が、頭をかく。
【 地侠元聖? 】
「周りにも止められたんだけど、やっぱり、自分で見定めたくなってね。これは悪いクセなんだけども」
【 地侠元聖? 】
「そちらも、目的は同じじゃないかな? だったら、共闘といこうじゃないか」
【 頭巾の女 】
「戯れ言を……!」
【 地侠元聖? 】
「いやいや、本気だとも。もし行く当てがないんだったら、うちの塞に来てもらってもいいんだよ?」
【 頭巾の女 】
「――っ、痴れ者めっ!」
頭巾の女が、怒気もあらわに手を突き出す。
と、その刹那。
……スッ……
【 長身の女 】
「…………」
【 頭巾の女 】
「――っ!」
一瞬の間に、かの長身の女が間に入ってきていた。
傘を持っていない方の手で、頭巾の女の手を握っている。
ギリッ……!
【 頭巾の女 】
「ぐっ……!」
その握力に、思わず呻き声をこぼしている。
【 長身の女 】
「盟主……この女……こま切れにしても、かまいませんか」
淡々とした声音で、物騒なことを口にする。
【 地侠元聖? 】
「おいおい、よしてくれよ、琅の姉妹。話がこじれるじゃないか」
【 琅 】
「しかし……この女、盟主に害をなそうとしました……万死に値します」
【 地侠元聖? 】
「まぁまぁ、こんな状況じゃあ無理もないさ。それに、やりあえばお互い無事じゃすまないだろ?」
【 琅 】
「わかりました……盟主が……そうおっしゃるなら」
琅と呼ばれた女はパッと手を離すと、再び音もなく下がり、男の側に控えた。
【 頭巾の女 】
「…………っ」
手を押さえ、うなり声を漏らしている頭巾の女。
【 地侠元聖? 】
「悪かったね、うちの仲間は血の気の多い連中が多くていけない……まあ、戯れるようなことを言った私が悪いんだけども!」
【 琅 】
「誰彼かまわず……勧誘したがるのは……盟主の短所です。唯一にして、最大の」
【 地侠元聖? 】
「すみませんね! さて、改めて名乗らせて貰おうかな。私は〈明・セイジュ〉という。ちょっとした愉快な仲間たちの頭目を任されているよ」
ここでいうちょっとした愉快な仲間たちというのは、数万を超える賊軍に他ならない。
【 セイジュ 】
「こちらの姉妹は、〈琅・ハナオ〉……〈一条太歳〉なんて呼ばれているね」
*一条……ここでは細長いものの意。
*太歳……邪神の意。
【 頭巾の女 】
「地侠元聖……一条太歳……どうやら、偽りではないようですね」
【 ハナオ 】
「は……? 盟主が……偽りなど口にするはずがないでしょう……? 分解……されたいの?」
【 セイジュ 】
「はいはい、ケンカしないでくれる!? さて、そちらの名を聞いてもいいかな?」
【 頭巾の女 】
「私は……」
女は頭巾を取った。
現れたのは十代半ばか、まだあどけなさを残した乙女の相貌。
【 娘 】
「人呼んで〈紅雪華〉。姓は雪、名は――ミズキ」
のちの女官長ミズキ、その若き日の姿であった。
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




