◆◆◆◆ 6-35 燎氏の変(21) ◆◆◆◆
さかのぼること、十五年前。
大宙暦3318年(帝ムジカ7年)、季冬の月(12月)。
帝国は、内戦状態に陥っていた。
世にいう〈三氏の乱〉が勃発したのである。
強大な勢力を持つ三つの氏族が結託して蜂起し、帝国に叛旗を翻したのだ。
この三氏とは、
雪氏
玄氏
黒氏
であり、いずれも名だたる大族であった。
西方で挙兵した叛乱軍の勢いはすさまじく、副都たる〈荊江永陽〉があっけなく陥落したほど。
この凶報は、帝都〈万寿世春〉の朝廷を震撼せしめた。
もっとも、三氏が掲げたのは宙王朝の転覆ではない。
すなわち、
――我ら、君側の奸を除かん!
*君側の奸……君主の奸悪な側近の意。
と、いうものである。
ここでいう“君側の奸”が差しているのが、丞相(宰相)の地位にある〈炬・ミンガイ〉のことなのは明らかだった。
ミンガイは、皇帝たる焔・ムジカの後見人として、強大な権力を振るっていた。
威勢天下を蓋わんばかりだった彼だが、ミンガイ打倒を掲げた三氏の攻勢によって、はなはだ苦しい立場に追い込まれているかに見えた……
雪の夜だった。
ひとつの影が、帝都〈万寿世春〉の夜道を音もなく駆けている。
目深に頭巾をかぶっており、その正体はさだかでない。
【 ???? 】
「――――っ」
ぴたりとその足が止まる。
その視線の先に、城とすら見違えそうな、壮麗なる屋敷があった。
【 見張りの兵 】
「異状ございません!」
【 見張りの隊長 】
「油断するな。いつ、不逞の輩が侵入を図るやもしれん……!」
【 見張りの兵たち 】
「ははっ……!」
夜ふけだというのに、門の周囲には武装した兵が多数たむろし、警備に当たっている。
ひどく物々しい雰囲気だった。
【 ???? 】
「…………」
物陰に身を潜め、様子をうかがっていた人影が、ふたたび歩き出そうとした、その矢先。
【 声 】
「おやおや、もしかして、ひとりで乗り込むつもりかい?」
【 ???? 】
「――――っ」
ふいに声をかけられ、振り返ると。
そこには、異様な二人組がいた。
【 男 】
「そりゃあちょっと、無理ってものじゃないかな?」
ひとりは、三十路がらみの中肉中背の男。
手に鉄扇を持ち、ニコニコと人なつっこい微笑をたたえている。
それはさておき、もうひとりは。
【 長身の女 】
「…………」
身の丈、七宙尺あまり(約2メートル)はあろうという長身の女が、傘を手にして、男の脇に立っていた。
まったくの無表情であり、あたかも蝋細工のようだ。
【 ???? 】
「――何者だ」
そう両者に問いかけた声は、若い女のものである。
【 男 】
「いやぁ、名乗るほどのものではないんだけどね」
男は苦笑いを浮かべつつ。
【 男 】
「いちおう、世間では〈地侠元聖〉なんてふうに、ご大層に呼ばれているよ」
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