◆◆◆◆ 6-29 燎氏の変(15) ◆◆◆◆
【 シジョウ 】
「なんだ、あれは……!?」
【 他の十二佳仙 】
「黄龍老師の手の者ではないので……!?」
〈遠見〉の術で極龍殿の正門の様子をうかがっていたシジョウたちは、謎の剣士の乱入に戸惑いを隠せない。
【 シジョウ 】
「知らぬ。……だが、あの姿は……」
【 シジョウ 】
(もしや……〈神仙殺し〉だとでもいうのか?)
古い伝説にある、〈神仙殺し〉と呼ばれた剣士の物語。
ある女が剣を極めんとして霊山にこもって過酷な修行を重ねた末、ついには神仙すら斬るほどの境地に達したという。
だがその剣士は神仙たちに恐れられ、謀計をもって抹殺されたと伝わるが……
【 シジョウ 】
(あやつの正体がなんであれ、正門を突破されては――)
シジョウらが手に入れるべき〈玉〉……すなわち、天子ヨスガのもとに先んじて到達されかねない。
【 他の十二佳仙 】
「ど、どういたしましょう、黄龍老師っ……」
【 シジョウ 】
「……今は捨て置け。肝心なのは極龍殿に入ることゆえな……!」
【 他の十二佳仙 】
「は、ははっ……!」
シジョウらは裏門、そしてそれ以外の通路へと手勢を向かわせる。
【 シジョウ 】
(何者かは知らぬが……先を越されてなるものか!)
【 ランブ 】
「はぁっ、はぁあっ、はぁああっ……!」
切断された左肘から、真っ赤な鮮血がほとばしる。
【 ランブ 】
(まったく……見えなかった……!)
首を刎ねんとした一撃を間一髪で躱せたのは、武人の本能、というようなものであっただろう。
激痛に下唇を噛むランブの脳裏に、亡き父の言葉がよみがえってくる。
【 ジンブ 】
『――戦場で生き残るために一番大事なことは、なんだかわかるか? ……なに、強くなること? そりゃあもちろんだ。だが、それ以上に肝心なのはな……』
【 ジンブ 】
『――相手の力量を見定めるってことだ。ひっくり返っても勝てねぇって相手に会ったら、恥も外聞もなく、逃げるにしかず――だ』
今まさにランブは、“ひっくり返っても”かないそうにない敵手と対峙している。
【 ランブ 】
(しかし――逃げられるものか!)
【 ランブ 】
「ぐっ……ぬうっ! ぬううううっ!」
ランブは気合で、左手からの出血を止めた。
度の過ぎた頑健さの持ち主である彼女ならではの芸当である。
【 長髪の女 】
「ほう、気迫のみで血を止めたか? 当世の武人も、大したものよなぁ!」
【 ランブ 】
「はぁっ、はぁあっ……貴様っ……何者だっ……!」
さしものランブも息を乱しつつ、問いただす。
【 長髪の女 】
「ふむ、名乗るほどの者ではないが……かつては〈神仙殺し〉とか、〈戮仙劔君〉などと呼ばれたものよ。まぁ、好きに呼ぶがよい」
【 ランブ 】
「戮仙劔君……!?」
その名は、かつて読み耽った書物の中にあった。
あまりの強さに神仙からも恐れられ、闇に葬られたとされる、伝説の剣豪……
【 戮仙劔君 】
「オレは名乗った。そちらも名乗ったらどうだ? オレは、己が斬るに値する相手の名を知っておきたい」
【 ランブ 】
「――っ、我が名はランブ……凪・ジンブが一子、ランブなり!」
己を励ますかのように、ランブはひときわ大声で名乗りをあげた――
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