◆◆◆◆ 6-28 燎氏の変(14) ◆◆◆◆
【 ランブ 】
「――ぬぅんっ!」
――ザシュウッ!!
【 覆面の剣士 】
「ガッ……アッ……!」
門に迫ってきた奇怪な剣士が、真っ二つになって消し飛び、そのまま雲散霧消する。
【 ランブ 】
(奇妙なものだ)
次々襲いかかってくる刺客を切り伏せながら、ランブは思う。
【 ランブ 】
(あのときは、要らぬと思っていた命が、今はひどく惜しい)
【 ランブ 】
(生きていなければ、あの方に、尽くすこともできぬ)
――ブォンッ!!
【 別の剣士 】
「グアッ……!」
左右の斧が空を裂くたび、迫りくる刺客が消え失せていく。
【 ランブ 】
(そう――己も生き、あの方も生かしてみせる――必ず!)
【 ランブ 】
「……む?」
群がるように迫ってきていた人ならざる者たちが、潮が引くように下がっていった。
またしても裏手に回るつもりかとも思われたが、
【 ランブ 】
(なんだ……まるで、逃げ出したかのような?)
不審を抱くランブの耳に、奇妙な音が届いた。
カラン……カラ……カラン……
【 ランブ 】
(……これは……)
ただ一人、背に長剣を負った影が、門に近づいてくる。
乾いた音の正体は、履いている木履であった。
【 ランブ 】
(先ほどの黒衣の刺客……いや、違う!)
そのあまりに無造作な歩の進め方に、ランブは瞠目した。
*瞠目……驚き、目を見張る意。
思わず、総身の肌が粟立つのを覚える。
【 ランブ 】
(なんだ……“あれ”は……!)
ただの刺客などではない。
人の形こそしているものの、あれは――
【 長髪の女 】
「ほう――なかなかの“強者”の匂いよな」
“それ”が言葉を発した。
見かけは長い髪をたなびかせた娘なのだが、その声音には底知れぬ重みがある。
【 長髪の女 】
「わざわざ出向いてきた甲斐があったというものよ。なぁ、〈雹〉?」
なにやら、背中の剣に声をかけている。
【 ランブ 】
「――おおおおッ!」
ランブは咆哮と共に、左右の斧を振るって、女に突貫していった。
本来なら、高所の有利を活かし、迎え撃つほうが得策である。
だが、あえてそれを捨てたのは、湧き上がる危機感ゆえに他ならない。
【 ランブ 】
(待つのはまずい――全力をもって、先手を打つしかないっ!)
そんな、戦士としての直感のなせる業であった。
【 長髪の女 】
「おお、オレの手並みを察したとみえる! そうでなくては――」
女は笑みを称え、懐へと手を伸ばす。
【 長髪の女 】
「――つまらぬ」
【 ランブ 】
「…………ッッ!!」
――ドシャアッ!!
【 ランブ 】
「ぐっ……ぬっ……!」
血しぶきとともに地に転がったのは、一振りの斧、そしてランブの左肘から先であった。
【 長髪の女 】
「おお! 首を落とすつもりであったが――腕一本で受けてみせたか。見事なり!」
背の剣を抜くまでもなく、懐から抜いた匕首を手に、悠然と微笑む女。
【 長髪の女 】
「さて、ここからが本番というものよ。愉しもうぞ、人の子よ!」
【 ランブ 】
「――――ッ」
鮮血を滴らせつつ、凪・ランブは戦慄した。
これまで、いかなる戦場でも感じたことのなかった“死”の気配。
それが今まさに、人の姿をなして眼前に立っているのだった。
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