◆◆◆◆ 6-27 燎氏の変(13) ◆◆◆◆
【 ランブ 】
「…………?」
【 ヨスガ 】
「おい、『この小娘、気が触れてるのかな?』みたいな目で見るなっ! あたしは正気だ!」
【 ヨスガ 】
「そなたがなにも考えたくない、というならそれでもよい。そのぶん、あたしがあれこれ考えてやろう。考えるのは得意ゆえな!」
【 ヨスガ 】
「要らぬというなら、その命、あたしによこせ!!」
【 ランブ 】
「――――っ」
その無法なまでの要求に、ランブは呆れながらも、
【 ランブ 】
(この小娘……小さい身体で、気迫だけは……大したもの)
【 ランブ 】
(そう……どこか、お父様のような……)
【 ランブ 】
「……好きに、すればいい」
ランブは、そう告げた。
【 ヨスガ 】
「ふん、その口ぶりは気に食わんが、少しはその気にはなったようだな」
【 ランブ 】
「だが……私は、この樹を、伐るまでは――」
【 ヨスガ 】
「ああ、それが、そなたの苦役なのだったな。心得ておる――やってくれ、エキセン!!」
と、ヨスガが叫ぶと同時に――
ドオォォーーンッ!!
【 ランブ 】
「なっ……!?」
文字通り血を揺るがすような巨大な音とともに、巨木の幹から炎が噴き上がった。
そのまま火は樹木全体に燃え広がり、轟轟とすさまじい音を立てながら燃え盛っていく。
【 ヨスガ 】
「おお――見事なものだ、やるな、エキセン!」
【 エキセン 】
「クク……これくらいは……造作もない……」
どこに身を潜めていたのか、痩せた男がやってきて、薄笑いをうかべた。
この男が爆薬の名手〈霹靂匠〉こと炮・エキセンであることをランブが知ったのは、後のことである。
【 ミズキ 】
「やれやれ、なにもこんな派手な真似をしなくても……」
【 ヨスガ 】
「手っ取り早いであろう? これで心配事はなくなったな、豪傑!」
【 ランブ 】
「…………っ」
ことのなりゆきに、ランブはやや茫然自失としていたが、
【 ランブ 】
「貴公は――いったい……?」
【 ヨスガ 】
「名乗ったであろう? 天侠大聖だ。まあ、この名が世に広まるには、ちと時間がかかるがな!」
【 ミズキ 】
「さて……そろそろ戻らなくては、面倒なことになるわね」
【 ヨスガ 】
「む……なにしろ、無断で抜け出してきている身ゆえな。では、そういうことだ豪傑、いずれまた会おう!」
それだけ告げて、ヨスガらは近くに留めていた馬車に乗り、立ち去っていった。
【 ランブ 】
「…………っ」
ランブは唖然として、見守ることしかできなかった……
その後。
かの巨木の炎上については、落雷によるもの……とされたらしく、ランブが追及されることはなかった。
彼女の罪自体が赦されたわけではなかったが、新たな労役が課せられることなく、しばし一囚人として閑静な時間を送ることができたのである。
……それからほどなく、新たな皇帝が即位し、大赦がおこなわれた。
罪を赦されたランブは帝都に召し出され、新帝の侍衛へと任じられ――
そして、今に至る。
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