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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
120/421

◆◆◆◆ 6-25 燎氏の変(11) ◆◆◆◆

 ザシュッ……ザシュッ……


 広大な荒れ野に、鈍い音が断続的に響く。

 源は、野にただ一柱突き立った、天を衝かんばかりの巨木である。

 その幹回りは、ざっと数百宙尺もあろうか。

 *宙尺……長さの単位。一宙尺は約30センチメートル。


 巨樹にはもはや生気はなく、すでに枯れていた。

 それでも、これほどの大きさの樹を切り倒すとなれば、一軍を動かすほどの人手が必要であろう。

 だが今、この古木に斧を振るっているのは、ただ一人。


【 巨躯の女 】

「はっ……! ……ふっ……!!」


 全身を筋肉の鎧で覆われた巨体の女が、大斧を振るい、幹に打ち込んでいる。

 そのたびに幹はえぐれ、樹皮は飛び散るものの、まるで象にあらがうアリのごときで、巨木はゆるぎもしない。

 それでも女は、黙々と斧を振るい、気合とともに振り続ける。


【 巨躯の女 】

「……くっ……おおっ……!」


 その顔は土気色で、およそ生気がなく、目に光は宿っていない。

 にもかかわらず、その肉体は雄々しく躍動し、強烈な斬撃を繰り出すのである。

 なにかから逃れるように、あるいは己を罰するかのように。


【 ???? 】

「精が出るではないか、豪傑――」


 ふいに声をかけられ、巨体の女は手を止めた。

 振り返った先には、見知らぬ人影があった。


【 性悪そうな小娘 】

「いくら“罰”であるとはいえ、ご苦労なことだ。空しい、とか、つまらない、などとは思わぬのか?」


 不敵な薄笑いを浮かべた、性格の悪そうな小娘である。


【 巨躯の女 】

「…………」


 女は無言で、再び斧を振るいはじめた。


【 性悪そうな小娘 】

「そなた……死にたがっておるようだな。そのくせ、なかなか死ぬこともできぬ。気の毒なことだ」


【 性悪そうな小娘 】

「その願い、かなえてやろうか?」


 女はもう振り向くこともせず、ひたすら斧を振るい続ける。


【 性悪そうな小娘 】

「ふん、だんまりか? まあ、そうもなろうなぁ」


 小娘が唇の端を吊り上げる。


【 性悪そうな小娘 】

「それはアレかね、己だけではなく、亡き父の罪までも償おう、という殊勝な思いというやつかな?」


【 巨躯の女 】

「――――っ」


 振り返った女の刺すようなまなざしが、小娘を貫いた。

 それまで生気のなかったその顔に、燃えるような怒色が浮かんでいる。

 常人なら、そのひと睨みで怯えすくむところだが、かの小娘はニヤリと笑ってみせる。


【 性悪そうな小娘 】

「おやおや、怒ったのか? なかなかの孝行娘とみえる。さぞやジンブめも、冥府あのよで喜んでいることだろうよ」


【 巨躯の女 】

「――お父様の、名を――」


【 巨躯の女 】

「軽々しく――口にするなッ!!」


 激昂した女――すなわちナギ・ランブが、殺気をまとって小憎らしい娘に突進する。


【 性悪そうな小娘 】

「――――っ」


 ――バキャアッ!!


【 ランブ 】

「ぬううッ……!?」


 振り下ろされた大斧が砕いたのは、小娘が腰を下ろしていた岩のみであった。


【 性悪そうな小娘 】

「おおっ……間一髪だったなっ。助かったぞ、大姐あねうえ!」


【 長身の女 】

「やれやれ……戯れがすぎるのよ、あなたは」


 小娘を抱きかかえた長身の女が、とがめるように言った。

 斧が振り下ろされる寸前、目にも止まらぬ速さで救い出したのである。


【 性悪そうな小娘 】

「うむ、煽ってその気にさせてみるつもりだったが……いささか調子に乗ってやりすぎたようだ。許せ、豪傑!」


【 ランブ 】

「――――っ」


【 長身の女 】

「ご無礼しました、ランブきょう。あなたの武名は、この辺土へんどにあっても鳴り響いております」

 *辺土……辺境、最果ての地の意。


 と、うやうやしく一礼して。


【 長身の女 】

「申し遅れました。私は人呼んで〈紅雪華こうせっか〉ミズキと申します。そして、こちらは――」


【 性悪そうな小娘 】

「ヨスガ、〈天侠大聖てんきょうたいせい〉ヨスガだ。といってもまあ、知らんだろうがな」


【 ミズキ 】

「それはそうね。なにせ、あなたが勝手にそう名乗っているだけなのだから」


【 ヨスガ 】

「はぁ~っ? それを言うなら大姐あねうえだって似たようなものであろうが!」


【 ミズキ 】

「私には実績がありますからね、実績が。多少なりといえどもね」


【 ヨスガ 】

「ぐぬぬ……! す、すぐ知られるようになるしっ! いやがうえにも天下に名を響かせてみせるともっ!」


【 ランブ 】

「…………っ?」


 ランブは、両者のやりとりに、目を白黒させる他なかった。


 時の皇帝とその無二の護衛の、それが初めての出会いであったのである。

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