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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
12/421

◆◆◆◆ 2-2 諫言 ◆◆◆◆

 宮殿の一角で、女官たちが楽器を手に、女帝ヨスガの御製ぎょせいたる楽曲を演奏している。

 *御製……天子が作った作品。


【 ヨスガ 】

「…………」


 皇帝は、氷のように冷たい顔でその様子を眺めていた。

 ホノカナはお側にかしこまり、荒々しくもどこか悲愴ひそうな雰囲気の曲を耳にしつつ、


【 ホノカナ 】

(とても、あんな可愛らしい御方が作ったとは……)


 信じがたい、と思わずにはいられない。

 エン・ヨスガは十四、五歳だっただろうか。

 ホノカナの弟と同じくらいだし、見かけはあどけなさを残した可憐な少女である……のだが。


【 ヨスガ 】

「――そこ、半音ずれておるぞ」


【 女官 】

「はっ……申し訳ございません……!」


 ヨスガに指摘された女官が、震え上がっている。

 相手が皇帝なのだから当然だが……それ以上に、あの声の冷たさはただならぬものがある。


【 ホノカナ 】

(それにしても……)


 ホノカナは朝からずっとお側にはべっているわけではないが、ヨスガは皇帝らしい仕事はなにもしていないようだ。

 もっとも、皇帝の仕事というのがいったいどんなものなのか、彼女には想像もつかないのだったが。


【 ミズキ 】

「――ご満足ですか、陛下?」


 ひととおえい演奏が終わったところで、女官長ミズキが尋ねる。


【 ヨスガ 】

「ふむ……」


 皇帝陛下、明らかに不服そうな様子である。

 そんな彼女の態度に、演奏係の女官たちは戦々恐々としていた。


【 ヨスガ 】

「この者どもは、ちと気合が足りぬとみえるな。おい、そこな者――」


【 ホノカナ 】

「……えっ? はっ、はいっ!」


 いきなり皇帝おんみずから指差されて、ホノカナは面食らった。


【 ヨスガ 】

「この者どもを鞭打て。腑抜けた演奏を繰り返さぬようにな――」


【 ホノカナ 】

「――――」


 立ち尽くすホノカナに、ミズキが鞭を手渡した。


【 ホノカナ 】

「あ、あの、女官長さま――」


【 ミズキ 】

「尻を打つだけです。痛くはあっても死にはしません。ただし、腰には当てぬよう」


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 小声で囁かれて、ホノカナは絶句する。

 その目に、罰に怯える宮女たちの姿が映る。


【 ヨスガ 】

「どうした、く打て!」

 *疾く……すぐに、さっさとの意。


 いらだたしげにヨスガが声をあげる。

 それを聞いて、ホノカナは――


【 ホノカナ 】

「――できません」


【 ヨスガ 】

「……なに?」


 その場の空気が、凍りついた。

 それも道理であろう。

 万乗の主である皇帝の命に、一介の新米女官が逆らったのだから。


【 ヨスガ 】

「……聞き間違いか? 今、なんといった?」


【 ホノカナ 】

「できない、って言ったんです!」


 皇帝の問いに、ホノカナは声を張り上げた。


【 ホノカナ 】

「確かに、わたしも昔からしょっちゅうお尻をぶたれたりしました! でもそれは、わたしが悪いことをしたときだけで……」

「演奏を間違えたくらいで鞭打つなんて、ばかげてます! そもそも――」


【 ミズキ 】

「ホノカナ――」


 ミズキが制しようとするが、それを振り切って。


「――陛下は皇帝なのに、年がら年中、遊んでばかりじゃないですか! わたしたちは朝から晩までお仕事して、その合間に楽器の練習までして――」

「お城の外の庶民はお腹を空かして、食べるだけで精いっぱいのありさまなのに、そんな苦労も知らずに、遊び呆けて……!」


【 ヨスガ 】

「…………!」


 もともと色の白いヨスガの顔から、みるみる血の気が引いていく。


【 ホノカナ 】

「そのあげく、演奏がなってないって叱られるだなんて、こんな理不尽な話、ありません……!」


【 ヨスガ 】

「――――――――」


 ……そしてほどなく、耳まで真っ赤になったかと思うと。


【 ヨスガ 】

「――その者の首をねよッ!」


 と、激怒したのである。


【 ホノカナ 】

「あっ……あわわっ……」


 今になって、口を押さえているホノカナだが、時すでに遅し……

 皇帝ヨスガは刀をひったくると、そのまま成敗してくれんとばかりに突き進んでくる。


【 ヨスガ 】

れ者、そこを動くなッ!」


【 ホノカナ 】

「…………!」

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