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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
117/421

◆◆◆◆ 6-22 燎氏の変(8) ◆◆◆◆

【 ホノカナ 】

(なにっ……アレ……!?)


 彼女の瞳に、奇怪なものが映っている。


【 ???? 】

「…………」


 それは、人からかけ離れた異形いぎょうであった。

 しかし獣でもなく、月明かりに鈍く光るその全身は、


【 ホノカナ 】

(まるで……むしみたいなっ?)


【 蟲のような異形 】

「ギ……ギ……!!」


 “それ”は四本の腕を持ち、その腕の先は鋭い刃物となっている。

 その一撃で、黒衣の男はあえなく息絶えていた。


【 蟲のような異形 】

「ギ……ギギッ……!!」


【 ホノカナ 】

(まさか、妖魔ばけものっ……!?)


 物語の中に出てくる魔物の類……と言われても、否定できない。


【 ホノカナ 】

(“これ”……絶対、危ないっ……離れないとっ!)


【 シキ 】

「な――なにっ? なんなのっ……?」


 一方、シキは理解が追いつかないようで、茫然となって立ち尽くしている。


【 ホノカナ 】

「シキちゃん、逃げようっ!」


【 シキ 】

「えっ? あ、あ、あっ……」


 ホノカナが呼びかけるも、身がすくんでいるのか、棒立ちになってしまっている。

 その間に、


【 蟲のような異形 】

「ギイ――」


 異形の存在が、シキに向けてその腕を振り上げる。


【 シキ 】

「ひ――」


【 ホノカナ 】

「危ないっ!」


【 ホノカナ 】

(手を取って引き寄せても間に合わない――それならっ!)


【 ホノカナ 】

「――えええいっ!!」


 ドォンッ!!


【 シキ 】

「きゃああっ!?」


 ホノカナはとっさに体当たりを食らわせ、シキを吹き飛ばした。


【 蟲のような異形 】

「ギイイッ……!!」


 次の瞬間、異形の振り下ろした刃がホノカナに迫り――


【 ホノカナ 】

「…………っ!!」


 あわや、リン・ホノカナの物語ここに終わる――かと、思われた、そのとき。


【 蟲のような異形 】

「――――っ」


 異形の怪物が、ぴたりと動きを止めた。

 なにかに気づいたように、西の方に顔を向ける。


【 ホノカナ 】

「……っ、これって……」


 ホノカナもまた、気づいていた。

 それは、聞き覚えのある調べ。


【 ホノカナ 】

(ヨスガ姉さまの、曲……!!)


【 蟲のような異形 】

「ギイイ……!」


 妖しき魔物は、ホノカナらに興味を失ったように、そのまま西の方へと移動をはじめた。

 その下半身はムカデのごとき構造で、カサカサと耳障りな音を立てつつ、闇に消えていく。


【 ホノカナ 】

「……っ、はぁっ、はぁあっ……」


 ひとまず難を逃れ、ホノカナは思わず胸を撫で下ろす。


【 ホノカナ 】

(で、でも、あんなのが、ヨスガ姉さまのところに行ったらっ、大変なことにっ……!)


【 ホノカナ 】

(それに、この男みたいな侵入者もいるみたいだし、いくら女官長さまたちがいてもっ……)


【 ホノカナ 】

(……っ、わたしが行ったところで、足手まといかもしれないけどっ……それでもっ!)


 斃れた男の手首を踏みつけて、固まっていた手を開かせ、剣を奪う。


【 ホノカナ 】

(ヨスガ姉さまのおそばが、わたしの、いるべき場所なんだからっ……!)


【 ホノカナ 】

「えっと……シキちゃん?」


【 シキ 】

「……ぅ……ぅぅ……」


 幸か不幸か、シキは失神しているようだ。


【 ホノカナ 】

「……っ、ごめんね、シキちゃんっ。後で迎えに来るから、そのまま、寝ててねっ……」


【 ホノカナ 】

(この騒ぎが全部落ち着いて、また会えるときまで――)




 極龍殿の、正門。

 そこに、華々しく奏でられる勇壮な調べに引きつけられるかのごとく、殺気の塊が結集してくる。

 待ち受けるは、二振りの大斧を構えた巨躯のつわもの


【 ランブ 】

「陛下は健在なり――ならば!」


 門の前に仁王立ちしたナギ・ランブが、不埒ふらちなる侵入者どもを睨みつける。


【 ランブ 】

「この左右の斧あるかぎり、一人たりとて不埒者を通しはせんッ!!」

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