◆◆◆◆ 6-22 燎氏の変(8) ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
(なにっ……アレ……!?)
彼女の瞳に、奇怪なものが映っている。
【 ???? 】
「…………」
それは、人からかけ離れた異形であった。
しかし獣でもなく、月明かりに鈍く光るその全身は、
【 ホノカナ 】
(まるで……蟲みたいなっ?)
【 蟲のような異形 】
「ギ……ギ……!!」
“それ”は四本の腕を持ち、その腕の先は鋭い刃物となっている。
その一撃で、黒衣の男はあえなく息絶えていた。
【 蟲のような異形 】
「ギ……ギギッ……!!」
【 ホノカナ 】
(まさか、妖魔っ……!?)
物語の中に出てくる魔物の類……と言われても、否定できない。
【 ホノカナ 】
(“これ”……絶対、危ないっ……離れないとっ!)
【 シキ 】
「な――なにっ? なんなのっ……?」
一方、シキは理解が追いつかないようで、茫然となって立ち尽くしている。
【 ホノカナ 】
「シキちゃん、逃げようっ!」
【 シキ 】
「えっ? あ、あ、あっ……」
ホノカナが呼びかけるも、身がすくんでいるのか、棒立ちになってしまっている。
その間に、
【 蟲のような異形 】
「ギイ――」
異形の存在が、シキに向けてその腕を振り上げる。
【 シキ 】
「ひ――」
【 ホノカナ 】
「危ないっ!」
【 ホノカナ 】
(手を取って引き寄せても間に合わない――それならっ!)
【 ホノカナ 】
「――えええいっ!!」
ドォンッ!!
【 シキ 】
「きゃああっ!?」
ホノカナはとっさに体当たりを食らわせ、シキを吹き飛ばした。
【 蟲のような異形 】
「ギイイッ……!!」
次の瞬間、異形の振り下ろした刃がホノカナに迫り――
【 ホノカナ 】
「…………っ!!」
あわや、鱗・ホノカナの物語ここに終わる――かと、思われた、そのとき。
【 蟲のような異形 】
「――――っ」
異形の怪物が、ぴたりと動きを止めた。
なにかに気づいたように、西の方に顔を向ける。
【 ホノカナ 】
「……っ、これって……」
ホノカナもまた、気づいていた。
それは、聞き覚えのある調べ。
【 ホノカナ 】
(ヨスガ姉さまの、曲……!!)
【 蟲のような異形 】
「ギイイ……!」
妖しき魔物は、ホノカナらに興味を失ったように、そのまま西の方へと移動をはじめた。
その下半身はムカデのごとき構造で、カサカサと耳障りな音を立てつつ、闇に消えていく。
【 ホノカナ 】
「……っ、はぁっ、はぁあっ……」
ひとまず難を逃れ、ホノカナは思わず胸を撫で下ろす。
【 ホノカナ 】
(で、でも、あんなのが、ヨスガ姉さまのところに行ったらっ、大変なことにっ……!)
【 ホノカナ 】
(それに、この男みたいな侵入者もいるみたいだし、いくら女官長さまたちがいてもっ……)
【 ホノカナ 】
(……っ、わたしが行ったところで、足手まといかもしれないけどっ……それでもっ!)
斃れた男の手首を踏みつけて、固まっていた手を開かせ、剣を奪う。
【 ホノカナ 】
(ヨスガ姉さまのおそばが、わたしの、いるべき場所なんだからっ……!)
【 ホノカナ 】
「えっと……シキちゃん?」
【 シキ 】
「……ぅ……ぅぅ……」
幸か不幸か、シキは失神しているようだ。
【 ホノカナ 】
「……っ、ごめんね、シキちゃんっ。後で迎えに来るから、そのまま、寝ててねっ……」
【 ホノカナ 】
(この騒ぎが全部落ち着いて、また会えるときまで――)
極龍殿の、正門。
そこに、華々しく奏でられる勇壮な調べに引きつけられるかのごとく、殺気の塊が結集してくる。
待ち受けるは、二振りの大斧を構えた巨躯の兵。
【 ランブ 】
「陛下は健在なり――ならば!」
門の前に仁王立ちした凪・ランブが、不埒なる侵入者どもを睨みつける。
【 ランブ 】
「この左右の斧あるかぎり、一人たりとて不埒者を通しはせんッ!!」
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