◆◆◆◆ 6-21 燎氏の変(7) ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「――――っ」
極龍殿に移動したヨスガは、ふと顔を上げて、耳を澄ませた。
【 ミズキ 】
「どうなさいました?」
【 ヨスガ 】
「いや……あやつはどうしただろう、と思ってな」
【 セイレン 】
「おお、愛しの妹君ですか? なに、心配せずとも、ほどなく参ることでしょう!」
【 ヨスガ 】
「だれが愛しの妹だ……あやつのことだから、ぐずぐずしているあいだに宿舎から出られなくなって、窮しているのではないかと思ってな」
【 セイレン 】
「うわ~、容易に想像できますねぇ~」
【 ミズキ 】
「まあ、その可能性は否定できませんが……」
と、嘆息しつつも。
【 ミズキ 】
「しかし、そうなったらそうなったで、きっとなんとかして駆けつけてくることでしょう」
【 ヨスガ 】
「ほう、ずいぶんと信頼しているようではないか、女官長どの」
【 ミズキ 】
「そうですね、彼女自身はやや……いえ、普通に……否、相当にあぶなっかしいのですが」
【 ミズキ 】
「彼女を取り巻く縁のようなものには、信を置いています」
【 ヨスガ 】
「ふん、縁――か。ずいぶんと響きのいい言葉だが」
ミズキの言に、ヨスガは眉をひそめた。
【 ヨスガ 】
「……それが、作為的なものでなければよいがな」
【 ミズキ 】
「…………」
そこへ、ランブが駆けつけてきて一礼する。
【 ランブ 】
「――陛下、兵の配置を終えました」
【 ヨスガ 】
「うむ――――」
立ち上がり、手にした琵琶の弦を撫でるヨスガ。
【 ヨスガ 】
「間もなく、ここは戦場となる。者ども、我を守り抜き――」
【 ヨスガ 】
「――そして、いかなる手を用いても、生き延びよ! ここは死地だが、死に場所ではない!」
【 ランブ 】
「はっ……!」
巨体を屈めて応じるランブ。
【 ミズキ 】
「御意――」
優雅に装束の裾を持ち上げるミズキ。
【 セイレン 】
「わははは! お任せあれ! この天衣無縫の仙術師にして! 古今無双の大軍師たるセイレンあるかぎり、我らに敗北などあろうはずもございませんともっ!」
藜の杖を手に、呵呵大笑するセイレン。
【 ヨスガ 】
「ふん、今はその大言壮語も快なりと言っておこう――まずは、先遣隊と合流するまで持ちこたるのだ!」
かくして、極龍殿の攻防戦がここに幕を開ける――
ドシャッ……!
【 黒ずくめの男 】
「があッ……!」
【 シキ 】
「ひっ!?」
【 ホノカナ 】
「……えっ!?」
鮮血を飛び散らせながら倒れ伏したのは、シキでもホノカナでもなく、黒衣の刺客だった。
【 ホノカナ 】
(誰かが……助けてくれたっ?)
と、思ったのも束の間。
【 ホノカナ 】
「なっ……」
ホノカナは、思わず目を見開いた――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




