◆◆◆◆ 6-19 燎氏の変(5) ◆◆◆◆
また、内廷の東の宮にあっては――
【 カツミ 】
「おやおや……派手におっぱじまったもんだなぁ」
宮殿の屋根に立ち、立ち昇る火の手を眺めながら、燃・カツミがつぶやいた。
【 アズミ 】
「すごく、きれいだねー……」
カツミに肩車された煉・アズミが、目を輝かせている。
【 カツミ 】
「綺麗? 綺麗かねぇ……よくわからんな」
【 アズミ 】
「もっと、近くでみたいなー」
【 カツミ 】
「おいおい、ここを離れるわけにはいかないだろ。そういう“約束”だからな」
【 アズミ 】
「そうだったー。じゃあ、もっと近くがぼうぼう燃えないかなー?」
【 カツミ 】
「物騒だねどうも……ま、それは、これからの成り行き次第だろ。あたしたちの出番はないと思うけどな」
【 アズミ 】
「ちぇー。あいつが、おもしろくしてくれないかなー?」
【 カツミ 】
「あいつって……あぁ、この前の小娘か? どうだかねぇ」
【 アズミ 】
「きたいしてるー。えーっと……えっと、あいつ、だれだっけ……ぁ、そうそう――――」
【 ???? 】
「――ホノカナ……ホノカナ……」
【 ホノカナ 】
「ぅ……うぅん……ん……?」
自分の名を呼ぶ声に、ホノカナは目を覚ました。
【 ホノカナ 】
「あれっ……? ここ、は……」
そこは、見知らぬ場所だった。
山の中なのか、近くにはさらさらと小川が流れている。
【 ホノカナ 】
(どこか、見覚えがあるような……?)
この蒸れた風の匂いも、どこか懐かしい。
【 ???? 】
「――そう、きみと私が、初めて出会った場所だよ」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ――」
そこにいたのは、瀟洒な衣装を身に着けた、長身の女だった。
*瀟洒……洒落た様子、あか抜けた様子。
【 ホノカナ 】
「あ――焦さんっ!」
【 タイシン 】
「やぁ、元気そうじゃないか」
そう言って微笑みかけてくるのは、焦・タイシン……
宙国有数の政商にして、ホノカナを宮中へ送り込んだ張本人であった。
【 ホノカナ 】
「えっ? でも、わたし、お城にいたはずじゃ……」
【 タイシン 】
「なに、これはただの夢だ。整合性は気にしなくていい」
【 ホノカナ 】
「あ……あぁ、なるほど、夢なんですね」
そのわりには、やけにはっきりしているような気がするけれども。
【 ホノカナ 】
「あっ、弟は……アルカナは元気にしてますか?」
【 タイシン 】
「あぁ、そのはずだよ。彼には、大事な役目を任せている。とてもいい働きをしてくれているようだ」
【 ホノカナ 】
「そうなんですね……よかったです」
ホッと安堵する。
たとえ夢ではあっても、悪い知らせを聞くよりはずっといい。
【 タイシン 】
「懐かしいな。きみがここで溺れているところを、私が助けたんだったね。正確には、助けたのはユイだけれど」
【 ホノカナ 】
「あ、あはは……その節はどうも……」
【 タイシン 】
「さて……あまり長居はできないから、単刀直入に言おう」
【 ホノカナ 】
「はい……?」
【 タイシン 】
「以前、別れ際に約束をしたが……覚えているかな、小さいホノカナ」
【 ホノカナ 】
「あっ……はい、いつか、ご恩返しをするって……!」
【 タイシン 】
「もしその気があるなら、今こそ、お願いしたいことがある」
【 ホノカナ 】
「と、いうと……?」
【 タイシン 】
「それは――つまり」
【 タイシン 】
「皇帝陛下を、きみの、その手で――――」
【 ホノカナ 】
「――――っ?」
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