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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
11/421

◆◆◆◆ 2-1 逆鱗 ◆◆◆◆

■第二幕:

皇帝の太刀は虚を斬って新米女官を貫かんとすること、ならびに夜を彷徨さまよう面妖なる一団のこと



 ――大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、季春の月(3月)――



 春の気配色濃いさなか、宙の宮廷にて椿事ちんじが起きていた。


【 ヨスガ 】

「――その者の首をねよッ!」


 怒声が轟き、居並ぶ女官たちをおののかせる。

 声の主は他ならぬ女帝ヨスガであり、柳眉りゅうびを逆立て、怒色をあらわにしている。


【 ミズキ 】

「陛下、これなる者は、はなはだ不調法者いなかものなれば――」


 女官長ミズキのたしなめる声も聞かばこそ、


【 ヨスガ 】

「ならぬ! そなたが斬らぬとあらば、我が手ずからその素っ首を斬り落としてくれるわ!」


 怒り心頭、お側にひかえた女官がたずさえた剣へと手を伸ばそうとしている。

 その、尋常ならざる怒りの矛先はと見れば――


【 ホノカナ 】

「あ、あわわ……」


 誰あろう、我らが新米女官ホノカナ、その人であった。


【 ヨスガ 】

れ者、そこを動くなッ!」


【 ホノカナ 】

「…………!」


 いったいぜんたい、どうしてこんな次第とあいなったのか?

 ことの起こりは、少しばかりさかのぼる――――




【 ホノカナ 】

「はぁー……」


 ホノカナは雑務に追われながら、ふとため息をこぼしていた。


【 女官 】

「ホノカナちゃん、なにかつらいことでもあるの?」


 そう案じてきたのは、女官仲間の少女〈蓮華レンゲ・シキ〉である。

 歳はホノカナと同じほどなうえ、出身が同じ〈峰東ほうとう〉地方だけあって、親しくしているのだった。


【 ホノカナ 】

「あっ、シキちゃん……ううん、大丈夫! そういうのじゃなくって」


 ぶんぶんと首を振って否定するホノカナ。


【 ホノカナ 】

「確かに仕事は大変だし、女官長さまはおっかないけど、ご飯も食べられるし、寝るところもあるし……すごくありがたいよ!」


【 シキ 】

「そうだね……峰東にいたら、それどころじゃなかったかもしれないし」


【 ホノカナ 】

「うん……」


 彼女たちの郷里である峰東は、ほんの数年前まで、惨烈きわまる戦地だった。

 〈五妖の乱〉と呼ばれる、帝国を揺るがす大規模な反乱の舞台となったのだ。

 この大乱によって、峰東の人口は半減したとすら言われる。

 現在も戦禍の傷跡は癒えることなく、荒廃しきっているのだった。


【 シキ 】

「それじゃ、どうしてため息ついたりしてたの?」


【 ホノカナ 】

「んん……弟のこと、思い出しちゃって」


【 シキ 】

「あ……そっか。弟さん、いるんだよね」


【 ホノカナ 】

「うん。ショウさんが面倒見てくれてるはずなんだけど……やっぱり、心配で」


 いつもふわふわした雰囲気のホノカナだが、このときばかりはいささか大人びた横顔を見せていた。


【 シキ 】

ショウさんって、あの大商人のショウさんでしょう? それなら、心配いらないと思うけど……」


【 ホノカナ 】

「う~ん、でも、あの子、すごく落ち着きがなくて、暴れん坊だから……大丈夫かなって」


【 シキ 】

「あ、ああ、そういう……」


 天下を股にかけて活躍する大商人であるショウ・タイシン。

 帝国の中枢にすら太いつながりを持つ彼女と、ホノカナがいかにして知り合うことになったのか?

 それについては、のちに語るとして……

 ふいに、時を告げる鐘が鳴り響いた。


【 シキ 】

「――あっ、そろそろ、陛下の御前に行かないとっ」


【 ホノカナ 】

「えっ? なにかあったっけ?」


【 シキ 】

「もう……陛下が新しい曲を考えたから、ご披露なさるって言っていたでしょう?」


【 ホノカナ 】

「そ、そうだった……!」


 宮女勤めも一月あまり、ようやく仕事に慣れてきたホノカナではあったが、まだまだ頼りないかぎりではあった。

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