◆◆◆◆ 6-5 懸念 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「……う~ん……」
【 シキ 】
「……ホノカナちゃん、またなにか悩みごと?」
【 ホノカナ 】
「ふぇっ? ど、どうして?」
廊下の掃除のさなか、同僚である女官、蓮華・シキに声をかけられ、ホノカナは妙な声をあげてしまった。
【 シキ 】
「だって、最近ずっと難しい顔してるから」
【 ホノカナ 】
「そう、かな……?」
シキの指摘に、ホノカナは思わず自分の顔を撫でる。
【 シキ 】
「でも、私も同じかも……不安なことばっかりだし」
【 ホノカナ 】
「ん……うん、そうだね」
千里のかなたで行われている戦争については、いまひとつ実感がとぼしいが……身近な不穏さは、いやでも感じざるをえない。
【 シキ 】
「もうすぐ、大勢の方士を集めて、なにかお祈りをするみたいだけど……それってやっぱり、国母さまの件なのかな?」
【 ホノカナ 】
「う~ん……そうかもね」
十二佳仙による祈願祭について、ホノカナはヨスガたちから聞かされていたが、公式な発表はなされていないので、知らないフリをするしかなかった。
しかし、いちいち上から説明などなくとも、だいたい察することができるものだ。
【 シキ 】
「……そんなに、お悪いのかな?」
【 ホノカナ 】
「さぁ……どうなんだろ」
【 シキ 】
「国母さまに、なにかあったら……どうなっちゃうんだろうね」
【 ホノカナ 】
「……っ、シキちゃん、そんな話っ……」
思わず周囲を見渡す。
誰かに聞かれ、密告されたりしたら、大変なことになるだろう。
【 シキ 】
「ご、ごめんね……」
【 ホノカナ 】
「……っ、ううん、わたしも、気持ちは同じだから」
皇太后たる煌・ランハは、おせじにも評判のいい人物ではない。
帝国の最高権力者でありながら、乱れた世を正すため励むでもなく、悪辣な十二佳仙を重用し、豪奢な暮らしを楽しんでいる。
だが、長きにわたって宮廷に君臨してきたというその重み、存在感はやはりただならぬものがある。
もし突然、彼女がいなくなれば……
それは、天下にさらなる混迷を生み出すに違いない。
【 ホノカナ 】
(ヨスガ姉さまにとっては、目の上のたんこぶではあるのだろうけど……)
だからといって、いなくなったらいなくなったで困る……というのが、厄介なところなのだった。
【 シキ 】
「……せっかく峰東を離れて、穏やかに暮らせると思ったのに……」
【 ホノカナ 】
「…………」
彼女たちの故郷である峰東の地は、先の戦乱で荒廃し、今なお放置されたままであるという。
賊が横行し、無政府状態のようになっているとか。
そんな過酷な土地を離れ、いわばこの世でもっとも安全な場所であるはずの帝国の中枢にやってきたわけだが……
ある意味で、ここもまた、安寧とは程遠いのだった。
【 ホノカナ 】
(だって、もうすぐ、ここは……お城は……)
戦場に、なるのだから。
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