目の奥が熱い
「えーっと、今日は羊のミルクとチーズね」
私は7歳になるころには文字が完全に読めていたので、渡されたメモを見て、市場の中を歩いていく。
最近は小麦が豊作なのか、少し値段が安くなってるなぁ。
そんなことを思いながら私は目的のお肉屋さんに向かう。
すれ違う人は、「何この子…」みたいな目で見てくるが、もう慣れっこだ。
「こんにちわー」
「あら、フィオラちゃん」
「羊のミルクとチーズを2つずつください!」
「あいよー。全部で500ゴルドだよ」
「はい、これ」
私はそう言ってカゴからお金を出した。
「はい、丁度だね。おまけに内緒でこのソーセージ一本あげるよ! ここで食べちゃいな」
そう言っておばさんは、串にささったソーセージを一つくれた。
私がどういう環境で生活しているかを知っているからか、こうやってお遣いに来ると、いつも何かおまけをくれる。
これが本当に美味しいの…。
「いつもありがとう!」
私はそう言うと、一口かぶりついた。
パキッと言う音がして、寮では私には絶対出ないお肉が詰まっていて、中から肉汁が出てくる。
「んー!!!!! 美味しいーーー!! いつもありがとう!」
「いいのよー、こんな小さいのに頑張ってるんだから! 本当あそこは…」
とおばさんは途中まで言うと、向かいのお店から1人の男の子のような子が蹴りだされた。
「出てけ出てけ! お前みたいなやつが入ると店のもんがダメになる!!」
向かいのお店の店主さんがそう言っている。
店先にはうずくまる男の子がいた。
男の子は小さい声で、
「な、なにか捨てるものでも…いいので……」
「そ、そんなものはない! さっさと出ていけ!」
きっと孤児院にも入っていない孤児だろう。
あの子に比べれば、私はまだ食べ物をもらえてる分ましなのだろう。
「あんな小さな子ども蹴り飛ばさなくてもいいだろうにね~」
とおばさんが言った。
私は自分より大変そうな彼を見て、お肉屋さんのおばさんが私にしてくれた親切を思い出して、その子に近づき、
「食べる?」
と一口食べたソーセージを差し出した。
するとその子はそっと顔をあげて、串にささったソーセージを見ると、
「……いいの?」
「うん、いいよ。わたしも親切でもらったものだけど」
それだけ言うと、その子は私の手から恐る恐る棒を受け取り、ソーセージにかぶりつき、一気に食べ終えた。
「ありがとう…もう2日も何も食べてなかったの…」
そういうと私をみてニコッとした。
「え、あ、あなた、女の子なの?」
「う、うん…。邪魔だから拾ったハサミで切ってるの…」
私は男の子のような見た目だったその子が、実は女の子だったことに驚き、目を見張った。
すると急に目の奥が熱くなってきた。
待って。
これは! 魔力! 前光る魔道具に触れた時と同じ感じがする!!
どういうこと!!!
どうして目に!!!!
するとうっすら、その子の顔の横に文字が浮かび上がった。
脚力強化
無音…
そこまで読むと私は激しい頭痛に見舞われその場で倒れた。
目を開けると、そこは見慣れた寮の天井だった。
私は痩せこけてるけど、暫く寝ていたからかやたらと重たい体を持ち上げ、ベッドから出た。
そして部屋を出て、セリダさんを探すと、丁度部屋を出てきたセリダさんを見つけた。
「あの…」
「フィオラ! あんた魔力使っただろ! 成長するまでダメだって言っただろ!! 迷惑かけやがって!!!」
と頬をバシッと殴られた。
「…ごめんなさい……」
「10歳過ぎるまで絶対もう使うんじゃないよ!!」
とセリダさんは言いながら、もう一度バシッ!と殴り、玄関の方へ歩いていった。
腫れた頬を押さえながら私は食堂に向かった。
「アジェリーさん、お遣いごめんなさい…」
私がそう言うと、何か料理をしていたアジェリーさんはこっちを見て、
「あらあら…お腹すいたでしょう? 後で部屋に持って行ってあげるから部屋で待ってなさい。肉屋のおかみさんが抱っこして連れてきたときは何事かと思ったよ…」
「ごめんなさい…」
「魔力が少ないうちは、注意するのよ? 体の成長と共に魔力も少しは成長するから、そしたら日常生活には困らないようになるはずだから、それまではね? わかった?」
「はい…」
「でも、なんだって肉屋で魔力なんて使ったのさ」
「使ったというか…」
「まぁとりあえず、気をつけなさいよ」
「はい…」
「じゃあ部屋で待っててね」
私はそう言われたので、一旦頷いて部屋に戻った。
一体どういうことなんだ?
私は目に魔力を集めたつもりなんてなかった。
そしてあの女の子の横に見えた文字は一体…。
たかだか7歳の自分が考えてももちろんわからない。
うーんと思いつつも、食堂のアジェリーさんが持ってきてくれた薄いパン粥を食べた。
そして、「今日は休んでなさい、倒れられたら困る」とセリダさんに言われたので、最近文字が読めるようになったので読み始めた、他の住んでいるお姉さんに貸してもらった本を読みだした。
そして次の日は、またいつも通り掃除と洗濯をして、お遣いを頼まれたので、ついでにお肉屋さんに謝ってこようと思い、お肉屋さんに向かった。
「こ、こんにちは」
私はお肉屋さんの店の前で商品を並べるおばさんに話しかけた。
「あら、フィオラちゃん! 大丈夫だった?! 急に倒れちゃってびっくりしちゃったよ!」
「す、すいませんでした」
「もう大丈夫なのかい?」
「はい、もう元気です」
「そうかそうか。それならよかったよ。あ、そう言えばあの時一緒にいた女の子から、手紙をあずかったよ。手紙って言っても、文字が書けなかったみたいだから、あたしが聞いて書いたんだけどね(笑)」
そういうとおばさんは、私に小さな紙を渡した。
『ありがとう。お礼が言いたいです。私は、街外れの橋の下に住んでいます』
と、おばさんの字で書かれていた。