【ルイン視点】雲をつかむような
「ザッハ、まだ掴めないのか?」
ザッハから、スキル持ち、しかも身体強化か脚力強化持ちの子どもがいることを報告されて、直ぐにその子どもの引き抜きと、教会の調査に乗り出した。
それから半年ほどたっているが、未だ子どもはみつからず、教会の隠ぺいのしっぽすらつかめていない。
「はい、申し訳ありません」
「なぜだ」
今までこんなこと一度もなかった。
いくらあっちがスキル持ちとはいっても子どもだ。
しかもザッハは王国騎士団で鍛え上げ、無音のスキルまで持っている。
それで子供一人見つからないなんてあり得るのか???
「子どもの方は、近くまではいけていると思うのですが、いざ近づこうとすると、いるはずだった場所にいないのです…」
「どういうことだ…」
「まるで私の動きが察知されているかのような」
「無音は使っているのだろ?」
「勿論です」
「それでそんなことあり得るのか?」
「今まででは一度もありませんでした。私としても半年かけてこの醜態、恥じ入るばかりです…」
あり得るのか?
いやあり得ているから半年間、その子どもが誰かすらもつかめていないのだ。
「しかし、目星はついております」
「ふむ」
「数年前から王都で話題になっている郵便をするマントの子ども」
確かに俺も聞いたことがある。
かなりの難易度の場所にも必ず手紙を届けるらしい。
しかも、誰もその配達現場を目撃できていないらしい。
確かにそれがスキルと言うことであれば説明もつく。
「なるほど、確かにそれなら配達できる理由もわかる」
「はい。恐らくその子どもが、私の追っているスキル持ちの子どもではないかと思うのですが、そこまでしかわかっておりません」
「配達を依頼してみては?」
「実行済みです。王城への配達は断られ、第1騎士団長の伯爵家への配達は引き受けてもらえましたが、姿が確認できませんでした…」
そんな絶対来るとわかっているところで、ザッハが確認できないなんてマジックみたいなこと起こるのか?
いや、起こってるんだよな…。
「一体どういうことだ…」
「いくら脚力強化していても、音でわかるはずなのですが…」
「だろうな……しかし教会の方は?」
「そっちも全くです。むしろ雲をつかむような感じで、白なのではないかと思ってしまいます」
「そっちもか…」
「申し訳ございません」
この半年、本件に関しては、全く進捗を見せない。
他に暗部が動いている件は確実に状況が進展しているのに、一番諜報に長けたザッハが動いている教会の反乱と言う前代未聞の問題かもしれない本件に関しては、一切進まないのだ。
スキルを持っている子どもの居場所すらつかめていない。
あきらかにおかしい。
今までこんなことは一度もなかった。
どういうことだ? ザッハと同じく無音のスキルも持っている? そうなるともはや数十年ぶりぐらいのスキル二つ持ちだ。
そんなことありえるか?
あり得なくはないが、もしそうだとしたら王国の威信にかけても見つけ出さなければならない。
そして手厚い待遇で城に迎え入れなければ、もし悪い組織や帝国に出ようものなら、王国がひっくり返ってしまうかもしれない。
「ザッハ、このままでその子どもは見つかるか?」
「時間の問題かとは思いますが、あっちもこちらに気付いているとなると、動かなくなったら現状では見つけられません」
「ふむ、時間との勝負か」
「はい。巷のうわさを聞く限りでは、最近は郵便の選定も多くなり、断られるものも増えているとのことでしたので」
「なるほど…。気付かれていると考えるのが妥当だな」
「はい」
「しかし、脚力強化だけでも貴重な人材だというのに、頭もそこそこつかえるみたいだな」
「そのようです」
面白い。
今までこんなに手玉に取られたことなんて、ザッハとの実技訓練ぐらいだ。
ザッハとの実技訓練だって、大人と子供の差がある。
今回は相手も子ども。
それでも、俺が尻尾もつかめない。
面白いじゃないか。
絶対見つけて、城に迎え入れてやろうじゃないか!
俺がそんなことを考えていると、ザッハが急に部屋からいなくなった。
暫くすると、部屋がノックされた。
「はい」
「やぁ、ルイン、元気にしていたかい?」
そう言って手を振りながら、セルジュ兄さんが部屋に入ってきた。
「セルジュ兄上」
「ルイン、そろそろ俺に味方してくれる気になったかい? 同じ側妃の生まれとしてさ」
セルジュ兄さんはそういうと、俺の向かいのソファーに座った。
「そんな恐れ多い。私ごときが味方などしては、逆にセルジュ兄上のご高名に傷がついてしまいます」
「そんなことあるわけない。つい先日も盗賊団を壊滅させたんだって? 父上が喜んでいたよ」
「偶然でございます」
「そうかい、でも、そろそろカイエンも動くだろうからさ。ルインどうだい?」
「私は暗部を預かる身。王国の味方ですので、セルジュ兄上の味方でもあります」
「それはカイエンの味方でもあるだろう? ふっ、まぁいい。少し本気で考えてくれよ? 俺が王になったら暗部なんてなくてもいい国にしてみせるさ」
そういうとセルジュ兄さんは部屋から出ていった。
暗部のいらない国。
理想だ。
だが、それは難しいだろう。
人が人である限りは。