第九話
明るい日差しが目を閉じていても分かる。
ゆっくりと目を開けると、白い光りが広がり、目から雫が流れた。
「どうしました?」
心配そうなロナの顔が覗いている。
「なんでもないわ」
腕で顔を隠しす。
懐かしい夢を見た。遠い遠い昔の夢。
「ここは?」
何か聞きたそうにしているロナに尋ねる。
「ここは、僕達の家でもある『シュノアード山岳』に築かれた『ネーサリアの天蓋』です」
「ネーサリア」
呟く。
それを聞いたロナは、ここネーサリアの歴史を話し出す。
「英雄『ルトー』が海を越えてやってきた『ディスクレート皇国』を迎え撃ち、撃退した要塞でもあり、また、伝説ではレーリアスが水の神『大海に漂うもの』から授かった『星杖雫』を掲げ、リレーウェンを襲った巨人を鎮めた聖地でもありますし・・・・・・」
ロナは誇らしげに語っている。
「ロナ。司祭が呼んでるぞ」
入ってきたのはトモ。
「気付いてたのか?」
私に気付いたトモの顔は驚きに包まれた。
「何?」
「いや・・・・・・よくあの傷でって思っただけで」
微笑んでトモの疑問に答えて、
「あれからどれ位時間が経ったの?」
「五日だ。あれから大変だったんだぞ」
傷を負った私を連れて、ラルインから離れた事。
警察の検問や軍、そして『世界統一同盟』の平和維持組織『騎士団』も動いたらしい。
それらの目をかいくぐって『首都ガルドレイ』に入り、ロナ達の仲間と連絡を取り、私の治療を行ってから、ここに着いたのが昨日の夜だったらしい。
「それにしても、回復して良かった」
「心配かけたね」
ロナの頭を頭を撫でる。
恥ずかしそうにしているのが、可愛い。
「トモ、司祭様はどちらに?」
「あぁ、聖堂で待ってる」
それだけ告げてトモは去った。
「じゃ、僕も」
ロナも去って部屋には私一人。
それにしても、懐かしい夢を見た。
服を脱ぎ包帯を解いて、背中の傷一つ無い斬られた個所を触る。
「どうしようか」
この状態を見れば、当然説明がいる。
が、それをすればここには居られない。
ふと見あげた窓の外は晴天。雲がゆっくりと風に流れている。
名残を惜しんでいる自分が可笑しい。
今まで何度も経験した事じゃないか。
一箇所には留まれない運命。
「さて」
ベッドから降りて、着替える。
背後の気配に近くの椅子を投げつける。
「昼間から何してるの?」
「少しは恥ずかしがったらどう?」
この前の少年。
その微笑む顔を見ると、冷静になれない。
「子供に見られて恥ずかしがるとでも?」
背を向けて、服を着る。
「ま、今回はキミの事が知れて良かったよ」
一人で話し始めた。
相手にせず、支度を続ける。
「私の事を知ったのなら、キミの事を教えて欲しいわ」
「ボクの事か?」
「当然でしょ?」
花火を手に取り、切先を向ける。
微笑む顔が少しも崩れなかった。
長い沈黙。
ドア越しに聞こえる足音と、時折吹く風の音だけの空間。
答えない少年。
不敵に笑う顔に不気味さを感じてくる。
「ボクの頼みは一つだ」
「私の質問には答えないの?」
「それは、キミがボクの頼みを聞いてくれれば教えるよ」
今度は私が沈黙する。
「簡単な事だ。これ以上彼等には関わらないで欲しい」
ふわっとカーテンが風に舞う。
さらりと窓辺に戻り、微風に吹かれ続けている。
「キミには何の因縁も無い事だ。わざわざ関わる必要も無いだろう」
言葉が鋭く心に刺さる。
確かに、関わる必要は無い。
でも、あの夜会って間もない私を信じて、命を預けてくれた。
その信頼を、裏切りたくは無い。今でも、ぎゅっと裾を掴んでいる感覚を覚えている。
それに、この感覚も気に入らない。
「答えは」
そう、呟いて、
力の限り、前に踏み込んだ。